Lesson.07 前処理を行う
全体洗浄の前にポイント汚れ除去
レッスン6ではちょっとブレイクして身近なトピックスを挟んだが、技術的な説明に戻ろう。レッスン5では、「見栄え修復」の第一工程『作業前検品』を説明した。今回お話する次の第二工程は、『前処理』だ。
実際には、汚れや状態によって幾通りもの処理があるが、まずは基本的な例を紹介していこう。
さて、女性のフェイスケアと同じ行程と思ってもらえばイメージしやすい。まずは「ポイントメイク」をとるように、全体を洗う前に特別なシミ、汚れ、スレ傷や毛羽立ちなどを前処理する。
シミや汚れには、水溶性(水に溶ける) と油溶性(油に溶ける)、又は複合の3種類がある。
多いのが、食べこぼしなどの油溶性のもの。除去には、例えば有機溶剤(石油系など) を使う。コットンパフに含ませてたたいたり、汚れがひどいものは、超音波をつかって水に散らすなどの処置が必要な場合もある。
汚れを可能な限り薄くしておくか、完全に除去しよう。補色後、透けて汚れが見えないようにしなければならない。
汚れが残っていると、あまり上手でない業者はそれをカバーしようと厚塗りにしてしまうことがあるが、絶対に禁物!オリジナルに忠実に仕上げるのが、消費者の望む見栄え補修だ。
下手をするとステッチや金箔押しのロゴまで埋めてしまっているケースもある。女性がシミをうまく隠せず、厚化粧になってしまうようなものだ。
汚れと共に脱色してしまっても、補色を前提としているので気にしなくてよい。しかし、革ダメージを抑えるために、抜けた油分は加脂剤で補おう。羊毛脂(ラノリン) と水を混ぜて乳化させたリンス水などがオススメ。
次に、スレ傷や毛羽立ち、これらも前処理が必要。
何度も擦れて変色したものもこの類いで、極めて細かい番手のサンドペーバーの出番だ。革の表面からミクロン単位で表面を除去するわけだが、以前お伝えしたようにHERMESのトゴ、トリヨン、クシュベル、またCHANELのキャビア、GUCCIのシマなどのシボや凹凸がある革は至難の業。マトラッセのステッチにも要注意、最新の注意を払いながら、サンドペーパーをかけて表面をならしていく。デリケートな作業だ。
仕上がりの美しさや、オリジナルな特徴を保てるかを左右する大事な作業のため、これは熟練者しか扱えない。担当をつけるなら、手先が器用でメイクの上手な女性が最適任ではないかと思う。
ポイント汚れが落ちたので、次回のレッスン8では、全体洗顔―クリーニングの工程に入ろう。
1960年、神奈川県生まれ。根っからの靴、バッグ好き。大学卒業後ヨーロッパに渡りフランスのシューズブランドに就職。帰国後は婦人靴ブランドのマネージャー、ブランドバッグ販売責任者、婦人靴メーカー商品企画・製造責任者などを歴任。皮革製品修復の「美靴工房」立ち上げに参画。現在は同社の専務取締役として女性修復師チームを率い数多くのメゾンブランドから指名を受ける。メディアにも度々取上げられており、質店・ブランドリサイクル店にとっては駆け込み寺的存在。
318号(2013/04/25発行)11面