Lesson.04 素材を知る
生存時年令で変わる皮革価格
前回は「皮」が動物の皮膚で、それを加工して安定させた素材が「革」だと学んだ。今回はその皮を剥がす前の動物分類や生存時年令。そして製品価格との関係をお話しよう。
バッグは革製が多いが、何の皮だったのだろう...ということへの興味はいかほどのものだろうか?
こうした背景を知っておけば、リサイクル店での接客にも深みが出てお客さんの信頼も得ることができるのではないだろうか。
まずは手触りや風合い、発色重視の高級バッグ素材をおさえていこう。
【牛】言わずと知れた最も多く利用される皮革。生きていた時点での成長度合いによってクオリティーも価格も分類される(カーフ、キップ、ステアなど)。丈夫で発色も良く表現力豊かな革の王様。特に生後6ヵ月未満のカーフはキメが細かくHERMESのボックスカーフで有名だが、あらゆる高級ブランドが採用、高級紳士靴にも使用される。
【山羊】仔山羊(キッド) と成長した山羊革(ゴート) に分かれ前者はキメが細かく発色が鮮やかで柔らかいため高級手袋や婦人靴に用いられてきた。耐磨耗性に優れているが近年は減少傾向。
【羊】種類が多く総称してシープと言う。生後1年以内の子羊からなるラムの質感は肌にしっとり吸い付くような病みつき革で、シャネルのマトラッセやロエベのレザーウェアが有名。ちなみに毛を取らずに生かし、なめされたものがムートンである。
【ワニ】最高級のクロコダイルにはじまり、斑紋の小さなアリゲーター。大衆的なカイマンに至るまでその生息地と種類によって分類される。ハイブランドバッグはクロコダイルで決まり!斑紋の大きさや張り、艶で主張する。HERMESのポロサスクロコダイルは「皮革の宝石」とも称され、驚きの細かさと均一さを誇る美しい斑紋である。
これら高級革は生後6ヵ月ないし1年以内のもので、体が小さいため一頭からたくさん取れず希少で値段が高い。したがってバッグとしても高価になるというカラクリだ。
牛丼やハンバーガーよりフランス料理の仔牛肉が高価なのと同様。小さく、取り都合が悪いが柔らかく美味しい(^q^)、さらに料理の種類も多彩にできることはそのまま革にも当てはまるようだ。赤ちゃんのお肌はキメ細かく美しく、触りたくなるだろう。
逆に体の大きくなった動物の革は価格も手頃、大量生産型の商品に向くわけだ。
また、上記以外にも革には実用的な豚、濡れても硬くならないセーム革なる鹿、軽く高級な靴ならカンガルー、エキゾチックなトカゲ、ダチョウの皮革オーストリッチなどもある。
当工房でもこれらを見分ける目利きとそれにふさわしい作業により、繊細な風合いを大切に再生しなければと日々感じている。
1960年、神奈川県生まれ。根っからの靴、バッグ好き。大学卒業後ヨーロッパに渡りフランスのシューズブランドに就職。帰国後は婦人靴ブランドのマネージャー、ブランドバッグ販売責任者、婦人靴メーカー商品企画・製造責任者などを歴任。皮革製品修復の「美靴工房」立ち上げに参画。現在は同社の専務取締役として女性修復師チームを率い数多くのメゾンブランドから指名を受ける。メディアにも度々取上げられており、質店・ブランドリサイクル店にとっては駆け込み寺的存在。
312号(2013/01/25発行)6面