たんす屋、お客様から選ぶ楽しさを奪わない接客
2020年01月06日
セラー道 ~私の販売接客術~
「リアルの接客は、マニュアルと違う」
"選ぶ楽しさ"を奪わない
リユースと新品着物を扱う「たんす屋」東銀座店の新田洋子店長は、着物の決まりごとに固執しすぎない柔軟さで常連客を集めている。お客には着物を選ぶ楽しさを感じてもらいつつ、間違った買い物にならぬよう慎重な接客に努めている。
たんす屋 東銀座店(東京都中央区) 新田洋子店長
たんす屋東銀座店の外観。この地に店構えして約4年になる
常連客がいつ覗きに来ても、売り場の変化を感じとれる店作りを心掛けている新田さん。店内を装飾する際は同じスタッフに任せるのでなく、色々な人の感性に頼り試してみる。例えば、中央に漆黒のフォーマル着物を置き、その両隣にピンク色の着物を配置した例。
ディスプレイの一角。中央に黒の着物、その両隣にピンク系の着物を配置。黒がピンクの鮮やかさを引き立てつつ、素人目でも違いが分かる工夫をしている
「同じピンクでも豪華か、そうでないかの細かい違いに、素人目でも簡単に気づけます」(新田さん)。これなら漆黒の着物が両隣のピンクの鮮やかさを引き立てると同時に、2種類のピンクの着物それぞれが、お客が考える利用用途に相応しいものかどうかを判断する手助けにもなる。
「マニュアル本に書いてあるような、『この場面にこの柄は◯、この場面には△』という決まりはあっても、実際の接客はちょっと違う。つまりはお客様から着物を選ぶ楽しさを奪わないこと。例えば結婚式に着る着物を探しているお客様がいるとします。主役を立てるよう、お客様の立場を聞いてそれに相応しそうな着物を提案するのも確かですが、お客様が迷っているなら、『お祝いの気持ちをどんな着物で表現してみたいですか?』と聞くと、ご本人の感性が働き出し、納得したお買物に繋がります」(新田さん)。提言を求められても、「この場面にこれ」と決めつけず、「◯◯ではありませんか?」と伺いを立てる。
買ったリユース帯の長さが足りなかった...
新田さんが着物を嗜み始めた頃、長さの足りないリユースの帯を自分で誤購入したことがあった。その経験から、お客には買い間違いを起こさぬよう慎重な接客を意識。着物初心者が来店することがあり、その際、着付けやお茶など稽古事で着ようとしているお客には、「先生はどんな方?」と聞くことがある。今は洗濯のしやすいポリエステル製が多く流通しているが、先生の方針によっては絹の着物を絶対とする教室もあるという。
新田さんは、「たんす屋は、着物のよろず相談所でありたい」と語る。店には、お直しやお手入れのことなどを尋ねてくる常連客が後を絶えない。あれこれと困りごとを引き出し、「本社に聞いてみて、次回お答えしますね」などと、宿題を引き受けることもある。
第478号(2019/12/25発行)15面