《皮革製品修復ラボ(18)》同色系なら純正エイジング表現も

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《皮革製品修復ラボ(18)》同色系なら純正エイジング表現も

2014年05月15日

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皮革製品 修復ラボLesson.18 バッグの健康診断

専門知識持ったプロが寄り添って

試しに、自分が中古住宅を買う時を想像してみてほしい。販売会社が「現状のままでよろしいですか?」と言ってきたらどうか。

よいかと聞かれも、住宅の知識が無いからどこがいいのか悪いのか分からない。自分でチェックせよと言われても、どこから手をつければいいか分からない。そう思わないだろうか。

しかしこの時、「一緒に気になるところを点検しましょう」と言って、壁紙、襖、水回り、床下・・・とチェックすべき場所を示し、一緒に傷み具合を見てくれたら安心しないだろうか。専門知識を持ったプロによる健康診断。消費者はこれを望んでいる。

そして傷み具合がひどいところを見つけたら、お客さんは修復を依頼するだろう。傷み具合がそうひどくない場合は、住んでみて気になる段階で直してもいい。

住宅の健康診断をお客さんと一緒にすると信頼感も得られるし、中古住宅の販売だけでなく、メンテナンスやリフォームまで受注することができる。

さて、遠回りしてしまったがこれをブランドバッグに置き換えてみてほしい。ブランドリサイクル業界は、これができているだろうか?

では下に、「バッグの健康診断」と「その処方箋」の前回からの続きを紹介する。

□色のくすみや焼けは気になりませんか?

同じ革を使っていて色あせていない場所を確認してもらう。フタの内側やうち袋のヘリなどと見比べてみよう。

処方箋
もとの色にあわせて新品の色を再現する修理がある。ただし、見比べて今の色の方がいいという場合もある。その時には今の色に合わせて調色しムラなくまとめることも可。同色のグラデーションの範囲なら、純正のエイジングを表現することができる。

□ファスナーの不良は大丈夫ですか?

背中や内側にあるファスナーも全て指し示す。開け閉めをしてみて固くないか確認する。

処方箋
ファスナーが固くなってスムーズでない場合は、ロウソクの蝋を塗るだけでスムーズになるケースが多い。これならお客さんが自分でもできる。ファスナーが噛んだり、スライダーがとれてしまっている場合は、ファスナー自体を交換しよう。
プラス1
ファスナーをあけるのは、ファスナー自体の不良を確認するだけでなく、中身の不良を確認するためにも必須。内側の加水分解を調べることにもなる。 ちなみに加水分解は前回も解説したが、うち袋に使用されるポリウレタンが経年劣化してベタベタになる現象のこと。ファスナーの開け閉めの時に加水分解を一緒に調べてみるのもいい。

□金具の不良は気になりませんか?

処方箋
曇りが気になる場合は、真鍮磨きで光らせることが可能。ただし、キズがあっても純正品はそれ自体もデザインの一部なので取り換えない方がよい。

バッグは身近でいつも持っているため、プロはつい「分かるだろう」と思いがちだ。しかし、住宅を思い出してほしい。いつも住んでいるのに分からないことばかりだ。

購入前に商品状態をお客さんに確認してもらうことは、中古品を販売するリサイクル店にとって返品やクレームを防ぐ有効な手段だ。しかしこれを店本位ではなく「お客様本位に見せる」ことで、途端に顧客満足度を上げる手段にもなる。

川口 明人氏≪筆者 Profile≫ 川口 明人氏

1960年、神奈川県生まれ。根っからの靴、バッグ好き。大学卒業後ヨーロッパに渡りフランスのシューズブランドに就職。帰国後は婦人靴ブランドのマネージャー、ブランドバッグ販売責任者、婦人靴メーカー商品企画・製造責任者などを歴任。皮革製品修復の「美靴工房」立ち上げに参画。現在は同社の専務取締役として女性修復師チームを率い数多くのメゾンブランドから指名を受ける。メディアにも度々取上げられており、質店・ブランドリサイクル店にとっては駆け込み寺的存在。

343号(2014/05/10発行)10面

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