骨董買取の技法 第15回
海外作家は鋳造印がホンモノ
今回は『ブロンズ像』についてふれていきたいと思います。
以前、戦後すぐ100万部売れた作品の小説家T氏の親族から色々な物を譲っていただいたことがあります。ろくに物も無い時代に100万部売れたのですから、ご本人が亡くなった後も大変な資産家だったわけです。そこにエドガー・ドガのサインいりのブロンズ作品がありました。バレリーナの絵で有名なドガですがブロンズも高価で、国際オークションなどでは10億円で落ちたりします。
そのブロンズは、某有名画廊の社長とT氏の持っていた軽井沢の別荘と引き換えに手に入れたものだったそうです。また、箱書きを有名な作家の高田博厚がしていました。それだけのものですから委託でもいいので何とか扱いたいと思い、本などで情報を集めました(手数料だけでも高額ですから)。そして自分で出した結論は「微妙」。東京美術倶楽部の某市場へ出品しました。落札価格は本物のウン百分の一。駄目だったようです。
この話から何が言いたいかと言うと、ブロンズ像は作品があれば、複製を量産できるということです。
国内作家
国内の著名なブロンズ作家に、北村西望という作家がいます。長崎平和祈念像の作者として有名で、文化勲章を受章しています。美術年鑑を見ると2000万円ぐらいで掲載されています。メダルのような小品など記念品としてもかなりの量が流通していますので、一度くらい皆様も扱ったことがあるかもしれません。
そしてある時期この西望の干支の置物が、『大量生産』され百貨店などで大量に売られていました。10数万円ぐらいの売り値だったようです。それでも10年ぐらい前までは、数万円していた記憶があります。しかし現在はというと、交換会では1点数千円~で取引されます。この西望の干支などは複製ブロンズとしては、一番顕著な例かと思います。こうなるといくらブロンズと言っても、美術作品というより単なる置物になります。
同じような例ですと西望に師事していて文化勲章受章者の富永直樹や、女の子の作品で有名な中村晋也などの干支もかなり流通していて、西望の干支と同じ扱いです。ただ間違わないでいただきたいのが、大量に生産されている作品は安いですが皆一流の彫刻家です。1点ものはもちろん高価です。
ダリ「ニュートンへのオマージュ」
外国作家
複製という観点からお話をすると、外国作家の作品も複製品であふれています。ただこれを判断するのは、比較的簡単。外国の作家の作品には必ず鋳造印という、その作品を鋳造した鋳造所の印が入ります。大半が作家のサインの横に丸い形で刻印されています。ですから購入するときは、この印が存在するか絶対に確かめましょう。ただ作家のサインしかない場合は、複製品の可能性が大です。
また、現代に近い作家は、作品にシリアルナンバーを入れることが多いです。版画のように、何点限定で製作されたという事です。サルバドーレ・ダリ(図1) などは、入ることが多いです。また、日本の薮内佐斗司(奈良のせんとくんで著名)の童子シリーズなどでは、必ず刻印されています。
藤生 洋
<プロフィール>
昭和42年生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、ロッテの財務部で勤務。サラリーマン時代から骨董市に通う。歴史好きが高じて平成11年、31歳で起業。ネットオークションや骨董市で骨董品の販売をはじめる。平成13年には「(有)北山美術」に改称。平成24年には骨董の業者間オークション「弥生会」を3社共同で立ち上げ、会員数200社の規模に拡大する。現在は店舗と事務所を東京・千葉・札幌に展開している。骨董店での修行無しに独自に事業を軌道に乗せた手腕が話題になり、 2冊の著書を上梓。
401号(2016/10/10発行)6面