Interview
私たちは生産者から完全に独立した存在
製品の修理マニュアルを無料で公開するアイフィックスのKyle WiensCEOが、日本での本格展開に向け来日した。同社は年商21億円突破と推測されており、米Inc誌上で、最も早く成長している500社の内の一社に5年連続で選ばれている。アメリカではアイフィックスのマニュアルをつかって多くの消費者が自分のiPhoneやソファやカメラの修理を行っている。
iFixit Kyle Wiens CEO
−−アイフィックスには、どのくらい修理マニュアルが掲載されているのですか。
2万8000人のガイドが10万以上の修理に関する回答を行っています。ウィキペディアのように、修理方法を登録でき、日本のヤフー知恵袋のように修理に関する質問に答えることができます。
−−マニュアルの投稿で金銭的見返りがあるわけではないですね。何が投稿の動機になっているんでしょうか。
私たちの活動をすごく支えてくれているメイヤーおじさんについて紹介しましょう。彼は定年退職してテキサスに住んでいるんですが、自分の時間のほとんどを使ってうちのウェブサイトで回答してくれています。元々機械工だったのですごく詳しいんです。人は、何か問題があって困っている人を助けることに喜びを感じるものです。
どのくらいアイフィックスのコミュニティーに貢献しているかという評価を、ポイントであらわすようにしています。人によっては、評価の順位が上がっていくのが嬉しいと言います。もっとも、賞品をプレゼントしたり、メイヤーおじさんにはカリフォルニアワインを送ったりとスペシャルなこともしています。
アイフィックスのサイト。あらゆる製品の修理マニュアルが検索できる
−−修理マニュアルは一般ユーザーからの投稿だけで成り立っているのですか。
当社のスタッフも10〜15%くらいのマニュアルをつくっています。発売されたばかりの任天堂スイッチも、購入して分解し修理マニュアルをつくりますよ。
マネタイズは部品とツール販売
−−マニュアルや修理動画も含めて無料で公開していますが、マネタイズの方法は。
修理部品と修理工具の販売がメインの方法です。オリジナルのツールキットを開発していて、アメリカでは75ドルで売っています。それ以外に、ソフトウェアも販売しています。医療機器メーカーとか、社内研修で自分たちが修理を学ぶためにうちのようなシステムを使うんです。
アイフィックスが販売している修理工具のセット。米で75ドル、日本でも約1万3000円で販売している
−−根本的な疑問なのですが、消費者はなぜ自分で直す必要があるのでしょうか。
私の家のトイレが壊れたら、専門家を呼んで長い時間待って助けてもらうよりも私の方が早く直すことができます。日本のトイレはすごく多機能なので難しいかもしれないけど(笑)。でも、たぶんできます。
もし冷蔵庫が壊れたら、新しいものに買い替えるのは一日がかりの大仕事になります。中の食べ物は腐ってしまうし、それを取りださないといけないし。しかし自分で修理できるなら、オンラインで部品を購入し2時間で解決することができる。修理は、私たちが完全に生産者から独立した存在でいられることを教えてくれます。そして節約にもなります。
私たちの研究では、洗濯機や食器洗い機や乾燥機はだいたい7年間で壊れてしまうことが分かっています。昔は20〜30年も使えたものです。欧米の消費者はとても怒っていて、どうやったら自分たちで直せるのかっていうことに関心を持っているんです。
修理する権利を勝ち取った
−−メーカーとの軋轢はないですか。
Q設立の経緯は?
「大学生の時に私はiPodを落として壊してしまったんです。修理方法を探したんですがどこのウェブサイトにも載っていなかったし、交換パーツも売っていなかった。アップルもマニュアルを公開していない。それで怒って自分でやるしかないと思って、アイフィックスを立ち上げたんです」
420号(2017/07/25発行)9面