日進月歩の宝石鑑別 研究開発で新合成技術を見破る
2018年08月10日
日進月歩の宝石鑑別
研究開発で新合成技術を見破る
それに欠かせないのが宝石の鑑定・鑑別だ。そもそも本物なのか、合成石なのか、天然の色なのか処理済みなのかなど調べるべき要素は多い。
今回は宝石の鑑定・鑑別について米国宝石学会(GIA)の東京ラボ代表責任者の高橋啓司氏に話を聞いた。
―そもそもGIAはどういった組織なのでしょう。
高橋 NPOとして、世界中にラボや教育機関を持ち鑑定機器を開発したり、世界9か所のラボで鑑定をしたりしています。現在インドに二つ目のラボを作っているのと、アントワープにもラボを作る予定です。自前で機器の開発・合成・処理などの実験をたくさん行っていることが強みになっています。鑑定技術も研究していて、実はダイヤモンドの鑑定法としてよく用いられている、4C法を確立した団体でもあります。
―なるほど。そもそも鑑定や鑑別は何のためにするのでしょう。
高橋 しっかりと何の石で、どういったグレードか示すということがまず前提です。カラーもグレードに関わる重要な要素ですが、天然石でも人工的な処理をすることで色を変えることができます。それに合成石の技術も日々発展している。例えばですが、小さいサイズのダイヤモンドの合成品は紫外線を当てれば簡単に判別できました。しかし、最近簡単な処理で見分けがつきにくくなることが分かったのです。このような中で、最悪なのは天然も合成もわからない状態で市場に流れてしまうこと。それを防ぐために鑑定・鑑別があります。
―処理・合成の技術が日々発展しているわけですね。どのように対応しているのでしょう。
高橋 日々研究を続けて対応しています。今はサイエンスの時代、以前は人の目で鑑定していた時代もありましたが今はそうではありません。最新機器を使い、いかに新しい技術を看破していくかにかかっています。なので、研究が非常に大切です。しっかりした鑑定機関は研究も怠りません。私自身、以前は本部で鑑定機器の開発をしていました。東京ラボには私含め様々な博士号を持つ人間が6人在籍しています。
―ということは鑑定機器さえ扱えれば鑑定はできるということですか。
高橋 そうではありません、鑑定機器には限界があります。GIAには全世界で一日数万点の宝石が持ち込まれます、これだけの数を見ていると機械でできることできないことがはっきりわかってくる。例えば、ダイヤモンドのカラーグレーディングは機械で範囲を絞り、人の目で確定させます。ここは長年の経験と知識を持った人がかかわらなければできない領域です。
―それぞれどのような経験が必要なのでしょうか。
高橋 色石は色石、ダイヤモンドはダイヤモンドの経験を積む必要があります。さらにカラーダイヤモンドは難しく、GIAでは選抜されたものしか鑑定できない仕組みです。東京ラボでは鑑定不可のため本部に送ります。本部にもカラーダイヤモンドの鑑定ができるものは数えるほどしかいない。
―そういったものを裏付ける、鑑定・鑑別に携わるために必要な資格はあるのでしょうか。
高橋 他の団体も教育機関を置き資格を付与していますが、GIAの鑑定士資格が一種のデファクトスタンダード(事実上の標準)になっています。ダイヤモンド・色石・鑑別の3つの課程を終える必要があり、実は私も最後まで取り切れていません。さらに、しっかりした鑑別ができるようになるには何年も経験を積む必要があります。
―最後に、今の宝石界の現状と今後の展望を聞かせてください。
高橋 今のところ、日本においては合成宝石や処理石が区別されずに出回っているということはないと思います。それは鑑別機関がうまく機能しているから。先ほども述べましたが、最悪なのは合成・処理石と天然石が区別されずに市場に出てしまうことです。そうならないように、鑑定・鑑別技術を磨いていきます。
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