《皮革製品修復ラボ(27)》高級店は「攻めの浅さ」で風合守る

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《皮革製品修復ラボ(27)》高級店は「攻めの浅さ」で風合守る

2015年04月10日

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皮革製品 修復ラボLesson.27 中古の靴は売れる

消費者がメンテサービスを求めるように

プロが唸るプロの仕事~ニッポンのベテラン」という番組に先日出演した。くりーむしちゅーさんと小倉智明さんがMCをつとめる番組で、ある業種のプロが同業他社のプロたちの仕事ぶりを見学するバラエティーだ。

私はクリーニング業界を特集する回に、革製品メンテプロのコメンテーターとして出演した。格安チェーン店が、高級クリーニング店に訪問し技術を見学するという内容だった。

メンテ業は今、二極化が進んでいる。選ばれた業者はいくばくかのステイタスをもって精進しているところだ。番組に出てきた高級クリーニング店もそうだが、作業工程も格安店とは異なり、卓越したテーラー技術を使って、高単価のサービスを提供している。

二者を分けるポイントのひとつは「風合い」を守り復元できるかにあると思う。洗えば洗うほど汚れは落ちる。しかし同時に毛の持つ油や必要な栄養も落としてしまう。「ここで止める」という目利きができるかどうかだ。先の格安クリーニング店はスーツを業務用洗濯機で15分洗っていたが、一方の高級店は家庭用洗濯機で30秒、10回転だけさせてその後はつけ置きしてさらすのみ。脱水も9秒でとどめて、あとは24時間かけて自然乾燥していた。

番組中にもコメントしたが「攻めの浅さ」に唸った。そこで止められる勇気が風合いを守っている。

また、改めて強く感じたのが『メンテナンス』が日の目を見ているということだ。昔はメンテ業というと正直貧乏くさいイメージがあったし、組織に馴染まないような人がやる仕事、オタクの仕事という見方をされていた。それが今では『価値を生み出す仕事』としてこうしてメディアでも脚光を浴び、「マイスター」や「アーティスト」と呼ばれる業者も出てきている。底辺からスタートした業界が、「巨匠」と呼ばれる人財を輩出するまでに変わった。

当社にも保科という女性技術者がいるが、見た目も垢抜けているし、ファッション誌やブランド誌にも度々登場して、ブランドホルダーから「保科さん、保科さん」と言って頼られている。

この背景には、モノが売れない時代になって長く使うことが美徳とされるようになったことがあるように思う。大量消費の時代には不要だったメンテナンス業が、今必要とされているのだ。

また、リサイクルショップが担っている役割も大きいと私は考えている。高額なブランド品も中古品やアウトレットが流通することで、購買層が下がりパイが大きくなった。日本においてはブランド品は一部の富裕層が独占するものではなく、多くの大衆が楽しめる商品となっている。質のいい革製品のユーザーが増えたことが、そのメンテが脚光を浴びる一因になっている。

誰を対象にどんなビジネスモデルを構築するかで、選択する作業工程や仕上がりレベルも異なると思うが、消費者は1つの商品を持ちつづけ、そのメンテナンスを外に求めるようになっている。そのことを今回はお伝えしたかった。

川口 明人氏≪筆者 Profile≫ 川口 明人氏

1960年、神奈川県生まれ。根っからの靴、バッグ好き。大学卒業後ヨーロッパに渡りフランスのシューズブランドに就職。帰国後は婦人靴ブランドのマネージャー、ブランドバッグ販売責任者、婦人靴メーカー商品企画・製造責任者などを歴任。皮革製品修復の「美靴工房」立ち上げに参画。現在は同社の専務取締役として女性修復師チームを率い数多くのメゾンブランドから指名を受ける。メディアにも度々取上げられており、質店・ブランドリサイクル店にとっては駆け込み寺的存在。

365号(2016/04/10発行)5面

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