《ブランド市場バイヤーに学べ50》海外市場が牽引する、腕時計相場のいま
2018年11月07日
第50回 海外市場が牽引する、腕時計相場のいま
記念すべき(?)50回目のコラムとなりました。これまでお付き合いくださっている読者の皆様、ありがとうございます。これからお読みくださる新しい読者の皆様も 、どうぞよろしくお願いします。
さて、毎週来る台風の波が過ぎ去って、10月はスッキリと涼しい秋晴れの日も多くなりましたね。古物相場も、サマーシーズンを抜けて秋口に入って相場が動き始めています。腕時計に関しては9月以降、相場から上向きつつあります。8月までは海外のホリデーシーズンの影響から、ヨーロッパやアメリカ市場の動きが鈍かったことが一因です。オーソドックスなモデルが売れにくく、各社とも在庫がダブつき気味でしたが、ホリデーシーズンを抜けたことで市場に活気が戻りつつあります。
現在、古物相場は海外市場の動きに左右されやすいですが、腕時計は特にその傾向が大きいといえます。具体的な例でいえば、ロレックスのRef.162333はもろにその影響を受けているモデル。海外市場のニーズを受けて、古物市場での落札価格は40万円を超えることもザラで、数年前に比べると5 ~10万円近く上がっています。40万円で仕入れたRef.162333を50万円+αで国内小売店に出したとしても、高くてなかなか買い手がつきづらいでしょう。各社とも、Ref.162333は主に海外市場向けの卸売り商材として取引しているようです。
ロレックスの他、セミヴィンテージ、国産ブランドも人気
これはほんの一例ですが、このように海外市場の動向で相場が形成されているのが現在のトレンドです。また10月上旬現在、為替が円安トレンドに振れていることで、さらに相場上昇に追い風となっています。特にロレックスのスポーツモデルは、現行も旧型も軒並み値上がりしています。なお、余談ですが保証書の有無による値幅変動も大きくなっています。ロレックスのスポーツモデル全般で、保証書ありとなしでは10万円ほど値段が違います。ちなみにRef.16520=旧型デイトナに至っては100万円近く値段が変わる場合も......。保証書の重要性がより高まってきていますから 、取引の際は今まで以上に注意したいところですね。
なお、上記のロレックスや高額系の機械式腕時計以外でも、相場が上がっている注目株があります。"セミヴィンテージ"に属するような、一昔前のカルティエのタンクアメリカンや、シャネルのプルミエールなどは数年前から人気ですが、特に近年は相場が上昇。このあたりは国内外問わず人気が高まっているモデル。こうした、10万円前後かつECで捌きやすいモデルが注目を集めているようです。
また、機械式やヴィンテージとは趣きは異なりますが、セイコーやシチズンといった国産ブランドのハイテクウォッチ系も人気。クロノグラフやGPS、ソーラー機能を備えたこれらのモデルは、国内定価の半値以上の高相場で落札されています。主にアジア市場で人気が高いようで、海外への卸売りを念頭に置いた競りをよく見かけます。機械式時計の相ウォッチは割安感も相まって人、場気を集めているのかもしれません。
秋口に入って上昇基調にある腕時計相場は、年末にかけてさらに上がっていくと思われます。ちなみに、11月に関しては個人的に私どもが主催するRKグローバルオークションの相場にも注目しています。来月は、創立8周年の記念大会。例年、記念大会には相場がかなり伸びるため、現在の相場上昇トレンドと相まってどうなるか楽しみにしています。
相場はダウン傾向、ニーズに合った商売を
エメラルドやルビーといった色石も、ここ数ヶ月は相場に元気がありません。要因は、色石の輸出先として大きな存在感を示す中国の需要減。米中貿易摩擦の影響もあり、人民元安が続いていることが影響していると思われます。9月に香港で開催されるジュエリー・ショーの結果が、今後の相場を占う試金石となりそうですが、はたして。
そして、ダイヤモンドのメレ石相場は揺れています。いわゆる「潰し」と呼ばれるメレ石は、直近で1~2割ほど下がっています。大きな一因として 「人工ダイヤ」の存在が挙げられます。「以前、大量の天然メレ石の中にCVD合成ダイヤを混ぜ、それを買取店に持ち込む手法が流行り、相場が下落したことがありました。現在はそのときとは状況が異なり、CVD合成ダイヤを積極的に製品化するトレンドが生まれつつあります。今年6月にラスベガスで開催されたジュエリー・ショーで、世界最大のダイヤモンド商社「デビアス」が、CVD合成ダイヤを扱ったジュエリーブランドを発表し、市場でも賛否が分かれたことは記憶に新しいでしょう。同じく6月に、フランス・パリのヴァンドーム広場には世界初の人工ダイヤ専門店がオープンし、こちらも話題となっています。
良質な天然ダイヤと同等のクオリティを持ち、かつ安価な人工ダイヤは、ファッションジュエリーを中心に注目を集めています。実際、メレ石の中でもクオリティが低いものほど相場が下がっており、影響は少なくありません。また近年は、世界で環境問題に対する意識がさらに高まっています 。採掘時に少なからず自然破壊が生じる天然ダイヤと比べて、人工ダイヤは環境に優しいとされているそうです。
ハッキリとは分かりませんが、人工ダイヤは単なる一過性のトレンドではなく、今後のスタンダードとなることもありそう。
今は相場への影響はメレ石に留まっていますが、天然ダイヤ市場全体に影響を及ぼす可能性も視野に入れて、注目していきたいところです。
<Profile>
齋藤 清(さいとう きよし)
株式会社アールケイエンタープライズ・執行役員 兼 オークション事業本部 本部長 グローバルトレードと共催する「RKグローバルオークション」のオークショニアを務めるとともに、日本国内はもとより海外でも買い付けを行う敏腕バイヤー。ブランド品リユース業界歴は20年余り。ゴルフとお酒を愛する憎めない人柄で、業界関係者との人脈も深い。
第449号(2018/010/25発行)17面