《着物リサイクル春夏秋冬》第220回 たんす屋二十歳の記念祭
2019年01月08日
▲東京山喜 (店名・たんす屋) 中村 健一 社長
1954年9月京都生まれ。77年 カリフォルニア州立大学ロングビーチ校留学、79年 慶応義塾大学卒業。同年東京山喜入社、87年 取締役京都支店長、91年 常務、93年 社長に就任、今に至る。
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記念祭は観世能楽堂で文化イベント
お陰様で、たんす屋は来年の9月1日に二十歳を迎える。因みにたんす屋と誕生日が同じ私は、その日に満65歳になる。と言うことは、私が満45歳の誕生日にこの業態を立ち上げたことになる。
着物版
ブックオフ
ちょうど20年前の今頃、呉服問屋の三代目として社長に就任して数年が経過し、堀留(東京の日本橋界隈の繊維問屋が集中するエリアの総称)の呉服問屋は近い将来全滅すると感じ、社内での第二創業を模索していた。1998年12月、偶然立ち寄ったブックオフ荻窪店で衝撃を受けた。
1990年に一号店をオープンしたブックオフの存在を、当時私は未だ知らなかった。荻窪駅北口の青梅街道に面したブックオフに一歩足を踏み入れて、何と繁盛している本屋さんだろうと驚いたのである。更に、これが新刊本屋ではなく、古本屋だと気づいた瞬間に驚愕した。
それまで私が知っていた古本屋は、神田神保町界隈に軒を連ね、薄暗くて狭くて古い本独特の匂いがする在来型の店だった。それが明るくて広くて清潔な店舗に、溢れんばかりのお客がおり活気に満ちていた。その様子にインスパイアーされ「そうだ、着物版ブックオフをやろう!」と心に決めたのである。
翌年の春から着物の買取をスタートし、1999年9月1日にたんす屋の一号店がオープンした。あれから19年3ヵ月の月日が流れ、たんす屋のリブランディングの必要性を痛感している。着物や帯を家庭から買い取らせて頂き、綺麗に丸洗いしてリーズナブルな価格でお客様に提供するだけでは、残念ながら継続した市場創造が望めないと感じている。このことは、このリサイクル通信10月25日号のコラムでも書かせて頂いた。
日本一の檜舞台を5日間使用
たんす屋リブランディングのシンボルとして、12月15日に江戸総鎮守・神田明神でグランドオープンする文化交流館に「j-culture着物屋」を立ち上げた。ショップのコンセプトは「着物を着ての日本文化体験と、着物を通しての日本文化の魅力発信」である。これからは扇の要に着物を据え、ありとあらゆる日本文化の魅力をお伝えして体験して頂くことを、我々のビジネスの中核にしていきたいと考えている。
その覚悟を社内外に示すべく、来年2月に銀座シックスの観世能楽堂を五日間借り切って「たんす屋二十歳の記念祭」を開催することにした。このイベントは、今まで有楽町の東京交通会館で毎年4回開催する本部催事とは、全く違う文化催事にしたいと思っている。観世能楽堂のエントランスとバックステージを使って着物の販売会を催すことは同じだが、目玉は渋谷・松濤から移築された日本一の能舞台も五日間使わせて頂けるところにある。
毎月12月にたんす屋カード会員3万数千人に送る「たんす屋通信」では、巻頭で毎回ゲストをお迎えし、私と対談をさせて頂く。今年のゲストは、観世流二十六世宗家の観世清和様と対談させて頂いた。日本の数ある伝統芸能の中でも、最も長い歴史を持つのが能楽である。更にその能楽五流の中でも中心的存在で観阿弥、世阿弥の直系が観世流だ。この日本の伝統芸能の最高峰の舞台で、我々は日本文化発信型着物屋になる覚悟を決めてイベントを開催させて頂くことにした。
着物ショーなど三つを企画
この日本一の檜舞台で、現在三つの企画を考えている。一つ目は、たんす屋にご縁のある伝統芸能の様々な先生方に、観世能楽堂で各々の伝統芸能の魅力を遺憾なくご披露頂こうと言う企画で、すでに多くの出演オファーを頂戴している。二つ目は、たんす屋のお客様に着物のモデルになってもらい、この檜舞台で着物ショーにご出演頂こうと言う企画である。三つ目はもっと気軽に、この檜舞台で着物姿のお客様をプロのカメラマンが撮る写真撮影会を企画している。
銀座シックスの観世能楽堂には、480の客席がある。いつもは能や狂言を演じる能舞台で、もっと気軽に日
本の伝統芸能を企画したいと思っている。そして一人でも多くのお客様に着物を着て様々な日本の伝統芸能を観に来て頂きたいと考えている。これからの日本にとって、私は日本文化こそが最高にして最強の経営資源になると確信している。
今から150年前の明治維新に日 本は欧米列強に追いつき追い越す為に、文化を横に置いて文明化することに全力を尽くすと決めた。そのお陰で日本は欧米列強の植民地になること無く近代化を遂げ、先進国の仲間入りを果した。しかし今こそ、次のターニングポイントの到来である。それは文明化することの上位価値に、文化が来る時代の到来である。たんす屋は、二十歳の記念祭を契機に着物を着ての日本文化体験と着物を通しての日本文化の魅力発信を次の20年のビジネスモデルの中核にしていきたいと考えているが、いかがだろうか。
第454号(2018/12/25発行)18面