Lesson.41 リユースと組む
お客さんは選択したいのだ!
百貨店から、「お直し&買取り」の企画をやれないかという話をもらった。
曰く、お直しと買取りが一体になったサービスがお客さんにとって利便性が高いからということだ。
美靴工房は百貨店で年間10回以上革製品お直しの出店を行うが、以下のようなお客さんが少なくない。
劣化が気になるけど捨てられないバッグがクローゼットにしまってある。
修理してまた使うか、買取りに出して新しいバッグを買うか迷っている。
馴染みの百貨店で修理のお店が出ていたのでバッグを持ち込んで、いくらで直してもらえるか聞く。
(なるほど、★円で修理できるのね。でも、買取に出したらいったいいくらで買いとってもらえるのかしら?)
「買取査定もしてもらえますか?」
ここで当店が「すみません、うちでは買取りはやっていないんです」と答える。
するとお客さんは仕方なく修理せずに持って帰って、ネットで今度は買取り店を検索。
(近くの買取店はあそこね。今度持って行って修理費用とどれだけ違うか比較してみましょう) そして面倒になって結局そのままバッグをクローゼットにしまっている。
修理をしていると、こういう事例によく出会う。お客さんは、修理に出すか買取りに出すか天秤にかけて「選択」したいのだ。まだ、決めていない。
いっぺんに相談できるところが無いせいで、バッグがしまい込まれて日の目をみないのは修理業界にとっても中古業界にとっても、そして消費者にとっても損失ではないだろうか。
わたしたちは、ブランドバッグの修理やメンテをしているため中古業界とも関わりが深い。技術指導をしたリユース企業とは一緒に仕事もしている。それを知っているから、百貨店が相談を持ちかけてくれた。
さて、百貨店の現場からやりたいという意向を受けて、実際にタッグを組むリユース企業を含め商談を初めてしたのが6月末ごろだ。しかしまだ、上層部が頷いてくれない。法律の問題などクリアすべきことが横渡っているせいでもある。そうこうしているうちに、関西のある百貨店では買取りイベントを行ったという噂も聞いた。
革新的なサービスをはじめるには労はつきものかもしれない。お客さんたちに求められていると確信はあるから、もう少しがんばってみよう。ぜひとも、リユース業界の皆さんもチャンスを探してみて頂きたい。
≪筆者 Profile≫ 川口 明人氏
1960年、神奈川県生まれ。根っからの靴、バッグ好き。大学卒業後ヨーロッパに渡りフランスのシューズブランドに就職。帰国後は婦人靴ブランドのマネージャー、ブランドバッグ販売責任者、婦人靴メーカー商品企画・製造責任者などを歴任。皮革製品修復の「美靴工房」立ち上げに参画。現在は同社の専務取締役として女性修復師チームを率い数多くのメゾンブランドから指名を受ける。メディアにも度々取上げられており、質店・ブランドリサイクル店にとっては駆け込み寺的存在。
400号(2016/09/25発行)5面