骨董買取の技法 第19回
毎回この連載を担当し、私の友人でもあります北山美術の藤生洋さんから『刀剣』のことを書いてみないかというお話がありました。あすみ苑の井ノ上弘揚と申します。現在の私は中国を中心とした書画の売買をしておりますが、この世界に40代で飛び込む前は、本業の傍ら刀の鑑定を趣味としていました。私の師である、村上孝介先生が亡くなられた御年が、今の私の年齢であります。
何かのご縁と思い、昔話のように刀のことを書きます。皆さまの御商売で何かの参考にしていただければ、「有り難し」という思いです。
「まずは最寄警察へ!」と案内すること
まず刀の名称ですが、法律用語では刀剣と呼ばれております。切ったり突いたりする武器と辞典に書いてあります。確かに千年前からそのことが目的で造られておりますから、その通りでございます。
別の言い方で、「日本刀」とも言ったりします。これは、鉄で出来た美術工芸品という意味で美術に格上げ出来るほどの世界に誇れる剣、というニュアンスです。日本刀という呼び方は今、主に外国人たちからよく聞く言葉です。
もう一つ、これはもはや死語に近い言い方になりつつありますが、「お刀」という言葉を聞いたことはないでしょうか?これを知っている方はお歳を召した方か、時代劇のお好きな方だと思います。この言葉は、日本人にだけ通ずる「家宝」という意味であります。
以上のことを専門的ではなく、できるだけ専門用語は使わず、今までに先生や古人から聞いたよもやま話など思い出しながら、お話しいたします。雑談もありますが、暫しの間お付き合いいただければと思います。
とあるお客様のお宅に、掛け軸や骨董品の整理に呼ばれたときのお話しです。
「刀が出てきたけどどうしましょう?」というお尋ねでした。70代がとっくに駆け去ったと思われる奥様です。脇差で殆ど錆びついて商売になりませんものですから、「これは処分するか、もし取って置くつもりならば登録証というものが必要です」とお答えしました。登録を取るにはどうしたらよいかというお尋ねで、「まず最寄りの警察署に行って発見届を出していただき、その後定められた日に、各県庁の教育委員会で審査をして、そこで美術刀剣として認められれば、その日に登録証がもらえます」と説明しました。すると、奥様は大きく体をのけぞるようなしぐさで、手を横に振られました。とんでもないという仕草です。
話はこうです。数多い兄弟、異母兄弟がいる中で、何の因果かお父様の宅地を相続する羽目になったそうです。そこには5歳までしかいなかったとのことですが、大きなお宅だったそうです。しかし現在では到底住めるような家ではありません。家を壊す前に整理していたら、どこからか小さいピストルが出てきたそうです。戦前、満州にいく機会の多かった父上の護身用だったのかもしれません。「こんなもの気持ち悪い。」と思い警察に届けに行かれた時から、この奥様に大きな災難が待っていました。
【続く】
井ノ上弘揚
<プロフィール>
古美術などの買取・販売の「あすみ苑」代表。鹿児島県出身。40代半ばで骨董業界に入り、現在は書画を中心に事業展開をしている。刀剣の鑑定は20代の頃より行っており、約50年のキャリアの持ち主。千葉県千葉市内のあすみ苑内にはギャラリーがあり、2ヵ月に1度書画目録なども発行するなど精力的に活動している。
411号(2017/03/10発行)6面