Lesson.47 アパレルのメンテ
価値を損なわない事が求められる
美靴工房は百貨店にメンテショップを度々出店しているが、その際バッグと靴だけでなくスーツや洋服のメンテナンスもしてほしいというリクエストがお客さんから寄せられている。
それを受け、高級衣料のクリーニング店やスーツのお直しショップとコラボを何度か行った。あらゆる高級品を直して再生するユニットだ。
百貨店曰く、「モノばかり売るのはもうダメだ、コトを売らないと...要するにソリューションだよ」だそうだ。高額品を販売すると、自ずとお客さんは次にメンテナンスを欲しがる。良質なアパレルを販売している百貨店にとって、高級衣料のクリーニングやお直しも必要なメニューになってきたのだと思う。
さて、では高級衣料に求められるクリーニングとは何か。「価値を損ねず清潔にリセットする」ということだろう。高級衣料を大別すると、シルクや獣毛などの「高級素材」、そしてシャネルとはじめとする「ラグジュアリーブランドのプレタポルテ」に分けられる。
獣毛の代表格と言えばカシミア。クオリティーによって価格も千差万別だが、その価値は、風合いや光沢、毛並、手触りなどに宿っている。だから、一般的な衣類のように洗濯機に入れて回し、絞り、乾燥させるという工程ではその価値を失うことになる。状態や着用環境など様々なファクターから判断し、最適な洗浄、乾燥、仕上げを行う必要がある。
また、ビキューナのような希少素材のクリーニングが求められることもある。「神の糸」などとも呼ばれる、ラクダ科のカシミア以上に質のいい獣毛だ。マフラーで15万円程度する。クリーニング事業者とて、あまりお目にかかることはないかもしれない。これも当然、カシミア以上に気を付けてクリーニングする必要がある。
次にラグジュアリーブランドのプレタポルテの場合、ブランドそのものの価値や、ボタンや飾り等のブランドアイコン、デザインやシルエット、ビジューやスパンコールなど装飾品などに価値が宿る。(高級素材使いのモノも多数ある)クリーニングやメンテナンスにおいても、そのブランドらしさを損なわないことが重要だ。ボタンや装飾品は原則、脱着して処置をする。
特にヨーロッパのラグジュアリーブランドの中には、元々クリーニングすることを前提に製造されていないものもある。例えば、ビジューの中にはクリーニングによって曇ってしまうものもある。ブランドによってはスワロフスキーを何百個も貼りつけたアイテムもある。割れるだけでなく、貼りつけた接着剤が弱かったり、クリーニングの溶剤に溶けやすい場合もある。そういうものを不注意にクリーニングすると、剥がれ落ちてしまう。
リサイクル店でよく目にするクロムハーツのアパレルは、ボタンやファスナートップなどの金具が925シルバーアクセサリーそのもの(銀の含有率92.5%)なので、その価値を損ねないために細心の処方と作業が必要だ。
高級衣料のクリーニングには、このような詳しい知識が求められる。もちろん高級レザー製品も同様。いずれにせよ過去に扱った経験がモノを言うので業者は選びたいものだ。
取材協力
アトリエ プルミエールbyカワキ屋クリーニング
石崎社長
≪筆者 Profile≫ 川口 明人氏
1960年、神奈川県生まれ。根っからの靴、バッグ好き。大学卒業後ヨーロッパに渡りフランスのシューズブランドに就職。帰国後は婦人靴ブランドのマネージャー、ブランドバッグ販売責任者、婦人靴メーカー商品企画・製造責任者などを歴任。皮革製品修復の「美靴工房」立ち上げに参画。現在は同社の専務取締役として女性修復師チームを率い数多くのメゾンブランドから指名を受ける。メディアにも度々取上げられており、質店・ブランドリサイクル店にとっては駆け込み寺的存在。
418号(2017/06/25発行)6面