仕事ができる人の1日
靴やバッグなどの革製品の洗浄、色補修、修理の「美靴工房」(東京都世田谷区)。上質な接客を提供することで女性客の心を掴んだテクニカルディレクター、保科美幸さんの仕事ぶりを紹介する。
総合皮革製品洗浄修復研究所
美靴工房 テクニカルディレクター
保科美幸さん
保科さんの行動力と情熱はすごい。24歳で技術部門の見直しを任せられると、フィレンツェの靴工房を飛び込みで訪ね、修行。染料を求めて、フランスの有名ブランドの工房には毎日通った。「何を使っているか教えてもらえないと日本に帰れない」と懇願したが、教えてくれない。それでも訪ね続けたある日、一人の職人が隠すように駅名と資材名を書いた紙切れをくれた。これがキッカケで修理のキモとなる資材を購入することができた。「これがなかったら、今の技術は確立できませんでした」と話す。
高級店で自ら上質サービスを体験
その後、保科さんはアッパークラスの女性客が利用してくれる店を目指し、工房のスタッフを全て女性にした。
また、そうしたお客に認めてもらうには上質な接客スキルが必要と考えた保科さんは、高級靴ショップやレストランなどに行き、自らサービスを受けた。ヨーロッパの有名靴ブランドも訪ね、なぜ富裕層がこの靴を選ぶのか、肌で感じる経験もした。
お客のライフスタイルまで考えた丁寧な接客を提供したところ、来店客数が増加。テレビにも取り上げられ、売上は飛躍的に伸びた。
「修理をすると価値が下がるという認識がリユース業界にありますが、女性は使用感のある品物に抵抗があります。リユースショップがきれいに修理された商品を購入したいというお客のニーズにもっと目を向けたら、客単価も上がり、リピーターも増やせるのではと考えています」
仏壇職人から伝授。漆用の刷毛を使用
保科さんの七つ道具。①スポンジタイプのサンドペーパー ②仕上げ剤を混ぜる容器 ③仕上げ剤 ④(左から)クリーニング剤、つや消し、ツヤ出し ⑤パレットナイフ ⑥筆 ⑦刷毛 ⑧カラー ⑨マスキングテープとペーパータオル。刷毛は保科さんが仏壇職人のところにムラにならない刷毛使いを習いに行った時に教えてもらった漆用のものを愛用している
修復作業をする保科さん
美靴工房に、立ち上げメンバーとして参加。当初は営業職だったが、お客の要望と実際に仕上がったものに違いを感じ、自分でこっそり修理を始める。その後、技術部門の見直しを一任され、3年かけて社内のクリーニング・修理の技術を確立。またスタッフ全てを女性にし、女性によるきめ細やかなサービスを提供している。
430号(2017/12/25発行)7面