骨董買取の技法 第6回
消印や絵葉書の風景に価値
去年、NHKの某番組がきっかけで坂本竜馬の書簡(手紙)が新発見されました。その所有者が四国の骨董品店で買った価格が、1000円。つい、数十年前の出来事だったようです。そして、番組側が出した査定は、「1500万円」。個人的には、ただの挨拶文ではなく新しい史実も明らかになったのだからもう少し高くてもいいのではないかとも思います。
それはさておき、明治の三傑と謳われた木戸孝允が蔵していたというこの書簡、箱書きもあるのに1000円で売ってしまった骨董店もどうかと思いますが、手紙はそれだけ難しい商品だとも言えます。たった1通の紙切れですが、色々な要素が含まれます。坂本竜馬のように有名人であれば、相場がありその相場で売れます。今回のような歴史的史実が解明されるような内容であれば、当然プレミアムが付きますが、よく画家などに見られる「スポンサーへのお金の無心や挨拶文」等は、それなりの価値しかありません。
大河ドラマで、佐藤隆太が演じていた「前原一誠」の書簡
一般人の方の手紙も売れる場合があります。戦前のものは間違いなくダンボール1杯あれば売れます。ではなぜ、売れるのか?下にまとめます。
①消印で売れる・・・珍しい消印を集めているコレクターは結構います。
②切手が売れる・・・土佐の村送り切手というのは有名で、数十万から数百万円で売買されるということです。ただし地域的に限定されますし、特殊な例かもしれません。
③絵葉書の風景で売れる・・・絵葉書の場合、日本の旧領土や旧植民地の北方領土や台湾など珍しい風景が載っていると売れることがあります。
④その他にも・・・戦地から送られる軍事郵便など。真っ先に捨ててしまいそうな古手紙ですが、結構、侮れないのです。
最近はマッチのラベルも馬鹿に出来なくなりました。昔は面白いデザインのラベルがあり、蒐集ファイル1冊出てくると1~2万円で売れているイメージでした。しかし、突然、10万円以上で売れたりするものが出てきました。これも中国需要で、中国のラベルが混ざっていると高値で売れるそうです。「売値数万円相当、高いと10万円」これを頭の片隅に置いておいておくといいのではないでしょうか?
冒頭の話に戻りますが、NHKの龍馬の手紙発見と同じ頃、僕の周りでも龍馬の手紙を買った業者がいました。大学の後輩で「武士の家計簿」の作者、磯田道史氏に相談すると、80年ぶりの再発見で真筆間違いなしという結論になりました。彼の連載している読売新聞の社会面に取り上げてもらうという話もでたのですが、NHKの手紙発見でインパクトが薄くなり、社会面でなくコラム上に顛末を載せただけとなりました。
ここで言いたいのは、たった1枚の手紙でも、歴史の教科書の内容を変えるような物があるという事実です。私は、日本にはまだまだ世にでていない資料があると確信しています。もし、龍馬の書簡のような話を耳にしたら、是非、良識ある骨董店や古書店にご相談下さい。歴史というのは所詮、史実を繋げたモザイクでしかありません。しかし、そのモザイクはたくさんあった方が、より事実に近い歴史になっていくのです。
藤生 洋
<プロフィール>
昭和42年生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、ロッテの財務部で勤務。サラリーマン時代から骨董市に通う。歴史好きが高じて平成11年、31歳で起業。ネットオークションや骨董市で骨董品の販売をはじめる。平成13年には「(有)北山美術」に改称。平成24年には骨董の業者間オークション「弥生会」を3社共同で立ち上げ、会員数200社の規模に拡大する。現在は店舗と事務所を東京・千葉・札幌に展開している。骨董店での修行無しに独自に事業を軌道に乗せた手腕が話題になり、 2冊の著書を上梓。
381号(2015/12/10発行)6面