第8回 ベテランバイヤーが備える３つの力
前回は市場で好かれるバイヤーに必要な心得をお伝えしました｡今回はさらに一歩踏み込んで､好印象バイヤーのさらに先を行く｢ベテランバイヤー｣が備える"三つの力"についてお話したいと思います｡
全国の様々な市場には､確かな存在感を発揮する｢ベテラン｣と呼ばれるバイヤーの方々がいます｡ひとたび競りの中で彼らを見れば､そのスキルに圧倒されるのではないでしょうか｡彼らを間近で見ていて感じることは『記憶力』と『集中力』､そして『判断力』に優れた方が多いということです｡
｢思考の瞬発力｣が最大の武器に
『記憶力』を例に具体的に話すと､出品ボリュームが数百点から数千点に及ぶ大会の最中において､彼らは自分が入札または落札した品物の状態や価格をすべて覚えています｡それだけに留まらず､自分が入札していない品物であっても､同じモデルであれば大会中の落札価格をすべて把握しているのです｡
ロレックスやルイヴィトンといった人気ブランドは､一度の大会中に同じモデルがいくつも出品されます｡当然､同じモデルであっても状態や付属品が違いますから､それぞれ相場も異なってきますよね｡
ベテランバイヤーは膨大な数の出品物の落札価格を把握している
競りの相場は"生もの"ですから､日頃培った相場感だけを頼りにしていると､必要以上に高く買ってしまった り､あるいは競り上がりに追いつけなかったりと､思いがけず足を掬われることがあります｡
たとえ自分が入札していない品物であっても落札価格を覚えておけば｢その大会の相場感｣を武器に､目当ての品物を落札できる確率も高くなるというわけです｡バイヤーにとって､記憶力は特に大切なスキルといえそうです｡
残る二つの力のひとつ『集中力』は､複数のバイヤーが参入する競り上がりの中で周囲の買い手の発句を正確に聞き分けながら､自らの発句を効果的にアピールするために必要不可欠なもの｡
そして､最後に決め手となるのが『判断力』｡皆さんご存知のとおり､昨今は長く続く円安トレンドやアジア圏の高級品需要の増加によって､以前と比べて相場の変動が加速度的です｡競り上がりに流されず外部環境を踏まえて､｢記憶力｣と｢集中力｣を総動員し､ベストな入札価格を導き出すのが､ベテランバイヤーの本領といえます｡
スピーディーな競りの中で､これらを瞬間的に見極める｢思考の瞬発力｣が彼らの最大の武器ともいえそうです｡市場に参加したら､まずは彼らをよく見ておくだけでも学ぶものは多いですよ！
余談ではありますがベテランほど､その他のベテランや､いわゆる"大御所"と呼ばれるバイヤーとのコミュニケーションを大切にしているようです(例えば｢発句が重なったとき(相ヤリ) は譲る｣など)｡市場は参加者みんなでつくるもの｡こうした気配りも､ベテランバイヤーならではの優れた判断力の成せるワザなのかもしれません｡
齋藤 清（さいとう きよし）
株式会社アールケイエンタープライズ
執行役員 兼 オークション事業本部 本部長
Profile
グローバルトレードと共催する「RKグローバルオークション」のオークショニアを務めるとともに、日本国内はもとより海外でも買い付けを行う敏腕バイヤー。ブランド品リユース業界歴は20年余り。ゴルフとお酒を愛する憎めない人柄で、業界関係者との人脈も深い。
366号（2015/04/25発行）6面
