Interview
「非効率だから大資本が入ってこない」
ブックオフの襲撃、アマゾンの台頭、電子化の波。度重なる荒波を乗り越えて生き残ってきた『古本屋』の強さの秘密はいったいどこにあるのか。東京古書組合の佐古田亮介理事長へのインタビューで探る。
東京古書組合 佐古田亮介理事長
究極に隙間を見つけてきた
−−古本屋さんの歴史は古そうですね。
江戸時代からあると思います。
−−全盛期っていつ頃になるんですか。
やっぱり日本のバブル期と重なるんじゃないですか、ほぼ。まずその前にオイルショックで紙の値段がものすごく上がっていくという数年があって。新刊書の定価がどんどん上がるわけです。それに伴って古書の値段も上がっていったというのがあります。
−−そのあとは減っていった?
高くなった本も下がっていくものがほとんど。もちろん下がらないものもありますよ。本当に貴重なものはね。
−−じゃあ、古書店もやっていかれない所が出てきたんですね。
要するにバブル期って何でも売れた時代でもあるんです。だからはっきり言って大した知識を持っていなくても、隣りの本屋見て売れている本を置いておけば売れるみたいな。でもバブルが崩壊してからはそういう風じゃ売れなくなるし、同時にネットの社会が広まってきた。郊外の本屋さんってそれまで主力で売っていたのが辞書・地図帳・お料理本みたいなもの。あとは文庫・新書・漫画です。ところが電子辞書が生まれ、ネット社会になって、カーナビが整備されると辞書も地図も売れなくなる。レシピもネットで見ればいいわけですから。古本屋さんにとって主力商品だったものが、どんどん時代の流れと共に売れなくなってくるわけですね。そしてもう、売れているのは何かといったら、漫画・文庫・ビニ本みたいなものだけ。で、そこにブックオフが台頭してきたわけです。すると、そういう商売だけでやっている古本屋は立ちいかなくなる。
−−そこを生き抜いてきた古本屋さんって何が違ったんですか。
出版物ってみんな絶版になっていくじゃないですか。2倍3倍10倍高く付けて売れるものが出てくるんですね。そういうものを扱うのが古本屋の世界。
組合で会館を持っている
関東大震災を境に変わった古本屋
−−10倍になるものを見抜けないといけませんね。
そういう知識を身に付けないと駄目です。古本屋も昔は、定価より安く売るディスカウントの本屋が大半を占めていたんですけど。どうも歴史的に見ると、関東大震災が大きな境目になっているみたいです。
−−どう分かれたんですか。
関東大震災後に復興がはじまると、学校や図書館で本が必要じゃないですか。出版社も燃えてしまっているので、新刊は手に入らない。東京が焼けても古本なら地方都市にいけば手に入るから、その時に古本屋がすごく商売を伸ばした。
−−ひとつのピークですね。
貴重なものは定価より高く売れるということを学んだ。そこでディスカウントから転換した古本屋が伸びていったんです。
神保町に200軒なぜやっていけるか
−−古本業界は色んな脅威にこれまでさらされてきましたよね。先程話にあがったブックオフの登場とか...。
最初の頃はかなり脅威になっていましたけど、今はもう。ブックオフは本当にリサイクルのお店なので、僕らみたいに付加価値が付けられない。古書業界が生き残っているのは、付加価値が付けられるからです。神保町は組合に加盟しているだけで150軒、それ以外含めると200軒近く古本屋がある。この狭いエリアにそれだけの本屋がやっていかれるというのは、何なのかって。
−−何なんでしょう。
隙間産業だからですよ。僕がやっている近代文学のジャンルにしたって、他に何軒かあるんですけど、みんなちょっとずつ違う部分があるんです。こういう作家には特に強いとか少しずつズレがある。そこが隙間。
−−アマゾンとかヤフオクのようなネット販売については、どう捉えているんですか。
アマゾンもヤフオクも古本屋が売るひとつの方法として参加しています。自分たちでも、「日本の古本屋」というECサイトを運営していますしね。
−−電子書籍はどうですか。脅威では。
国会図書館が蔵書を全部電子化して配信を始めるって言った時に、危惧はかなりありました。でもそれは前から予測していたこと。文字データだけで済んでしまうものは、はっきり言ってコピー機ができた時点でもう打撃を受けている。複製ですんでしまうものはしょうがないと。ただ、複製でどうしても済まないものが存在する。
−−どういうものですか。
錦絵や版画、和綴じの本なんかも。データとして研究する人にはデータで済んじゃうだろうけど、和本そのものに踏み込もうとすると、複製画像だけじゃリアリティーがない。
−−蒐集家もいますしね。
そう。好きで集める人もいるし、お金のために集める人もいるし。
プロフィール
東京古書組合 佐古田亮介理事長
近代文学を扱う古書店「けやき書店」代表。東京古書組合と全古書連の理事長を兼任している。
425号(2017/10/10発行)7面