Interview
社員一斉退職から「理念」で復活
工具専門のリユース店を直営10店、FC2店展開し、今期売上高12億円(直営のみ)を計画するアクト(埼玉県戸田市)。80坪で月間1500万円を売り上げる超ド級の店舗もあり、業界内でも話題になっている。しかし09年には社員の一斉退職で経営危機に陥っていた過去がある。伊藤啓介社長は「汚れた水槽」をきれいに戻すべく、新しい理念を設定。企業文化をガラリと変えてよみがえらせた。
アクト 伊藤啓介社長
−−今直営で10店舗、前期で10億8000万円まで売上を伸ばして社員も50名を抱えていますが、09年には社員が10名一斉退職して危機に陥ったことがありましたよね。
「会社は自分たちを見てくれない」と言って突然出ていってしまいました。当時は社長就任前、マネージャーでしたがすごく悩んだ。
考えてみると、どういう仕事をすると称賛されるのかとか、こういうことはしなきゃダメだよということが、まったく線引きされていなかったんですよね。それで価値観を明文化しようと、使い古された言葉ですけど、いわゆる「経営理念」とかっていう所を学び始めたんです。
−−これがターニングポイントですね。
ええ。労務士とか税理士の方からも「出入りが激しい」って言われました。それを「リサイクルは3Kって言われているから仕方ない」とか「小さい会社だからだ」と自分の中で納得してたんです。でも、「水槽理論」というのがあって。
−−水槽理論?
水槽の水質が濁っていると、その中に、活きのいい魚が例え入ってきたとしても、弱っていきますよという話です。だから会社は、まず今の水質を良くすることが大事なんだと。そのために必要なのが、経営理念と聞いて「なるほど」と思いました。
「社畜じゃねぇ」って言われた
−−どんな理念を設定したんですか。
「リユースサービスを通じてお客様に幸せをもたらします」という言葉を掲げました。ちなみにお客様というのは、社内のスタッフのことも含んでいます。
−−スタッフがお客様ですか?
社外のお客様って、みんな当たり前に大事にするんですよ。でも社内を見渡すと、時々罵声が飛んで、雰囲気が良くなかった。社内のスタッフをお客様と思えば、そういうこともなくなる。ある研修で「相手を怒るっていうのは、自分の発散だよ」「病気だよ」と言われたんです。僕もね、結構「そこ悪い、ここ悪い」って改善点だとか指摘して声を荒げることがあったので、これはいかんなと思った。
−−スッと従業員に受け入れられましたか。
僕は一生懸命勉強して、大切だなと分かっているんだけど、社員にはなかなか通じない。「俺はそんな社畜じゃねぇ」とか「洗脳されるの嫌だ」とか「あー宗教はじめちゃった」とか(笑)。
浸透させるには言い続けるしかない
−−どうやって浸透させたんですか。
これは、本当に言い続けるしかない。「理念を毎朝唱和」とかではなくて、なぜこの内容にしたのかとか、実際の行動をどう結び付けるかとかきちんと説明するんです。
理念を発表した時、ビジョンも見せないといけないから「2030年までに50店舗、売上高50億円」という定量的な目標も話したんですが、当時まだ4店舗でしたから、みんなポカンです。それでも一貫して説明し続けて、あとは理念と評価制度を結び付けました。
−−「会社を良くしたい」という想いは一緒でも、その線引きと合わない人が出てきたりしませんか。
例えばうちの会社って、技術的に高めたいっていう人がたくさんいて、評価項目の中に、技術的な項目も確かにある。だけどそれは評価項目の中の一部でしかない。一番大事にしているのが「情意項目」。人間としてどういった人が尊敬されるかという点です。
−−情意項目が最も重要なんですか。
特に新入社員は配点を高くしています。具体的に言うと、正義とか謙虚とか勤勉とかそういう項目。これが店長になると数値項目とか能力項目の方が高くなっていく。
つまり、情意項目ができていない人は、上に上がっていけない仕組みなんです。なぜかって、一番困るのは「能力が高くて人徳がない人」だからです。
434号(2018/02/25発行)7面