チケット不正転売禁止法を解説<太田純法律事務所>
2019年04月09日
意外と知らない法律問題
チケット不正転売禁止法成立
「まともな業者」への影響軽微
法律の専門家たちに、リユース業界に携わる者が知っておくべき法律との正しい向き合い方について聞く本連載。第四回は有名タレントの全国ツアーやシークレットライブの企画にも携わるなど、チケット転売に詳しい太田純法律事務所(東京都千代田区)の太田純代表弁護士。特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律(チケット不正転売禁止法)について聞いた。
新法成立で取締が簡単に
同法は昨年12月に成立し、今年の6月に施行が予定されている。対象となるのはコンサートなど芸術、芸能スポーツなどの「興行」のチケットの不正転売とその為の仕入れ行為で、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される。ただし、すべてのチケットが対象となるわけではない。「券面に日時場所のほか、入場できる資格者か座席指定があるもので、購入者の氏名、連絡先が表示され、転売禁止が明示されている必要がある」(太田弁護士)。
従来もチケットの不正転売には刑法246条の詐欺罪などが適用され逮捕される例があった。太田弁護士は「取締を簡単にすることで流通元を断つことが目的」と指摘する。従来の詐欺罪での立件には購入者が販売者をだましてチケットを購入したことを証明する必要があった。しかし、チケット不正転売禁止法が施行されれば見た目上、転売目的であれば仕入れ段階で摘発が可能になる。
ただし、詐欺罪のほうが法定刑が重く、状況に応じてこちらが適用される可能性もあるとした。他にも、チケットの買い占めなどで興行の正常な運営を妨げたと判断された場合には損害賠償請求訴訟を起こされる可能性もあると太田弁護士は話す。
対象チケットは資格者指定のみ
チケット事業者が気を付けるべきことを聞 くと「入場できる人の氏名、連絡先が書いてあるチケットで、転売禁止が明示されているものが対象である以上、まともな業者さんはそもそも扱わない商品のはず」と太田弁護士は話す。大きな影響はないとする一方「券面に入場資格者の指定がないかなどは確認すべき」とのこと。
不正転売とは当初販売価格よりも高い価格での転売で、業として行われる必要がある。業として、とは反復継続の意思がある行為のこと。一回の行為でも転売用のアカウントの開設など、反復継続する意思がみられる場合には摘発対象となる。経済活動を制限するとの指摘もあるが、今回対象となるのは入場資格者が指定されたチケットのみ。
太田弁護士は「そもそも、規制対象になるチケットは他人が使うことはできないし、身分を偽って入場すれば詐欺罪に該当する可能性もある」と指摘する。悪質な業者の中には学生などから小遣い稼ぎ程度の見返りで大量の保険証や印鑑証明のコピーを集め、その身分証でチケットを買い占めるものもいる。購入者には身分を偽って入場するように偽装をさせるという。さらに購入者側も、券面に入場資格者の氏名や転売禁止文言が記載されている以上、何も知らなかったとは言えないため保護するには当たらないのではとの見解だ。
第460号(2019/03/25発行)12面