コロナで苦境 救いの手『クラファン』で募る

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コロナで苦境 救いの手『クラファン』で募る

2020年07月05日

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生き残る店 次の一手
100万円集める古着店も

来店客の減少や、仕入れ・販売ルートの遮断によって苦境に立たされている店舗の中には、助成金の次の手として、不特定多数から支援を募る「クラウドファンディング」(以下、クラファン)を行う事業者が出ている。

4月400万円の赤字 想像以上の支援に涙

「どうしよう...」

東京都世田谷区の下北沢で古着店「スティックアウト」を経営する藤原輝敏社長は、店舗の売上を眺めながら頭を抱えていた。同店では緊急事態宣言で売上を大幅に落とし、4月は約400万円の赤字に。

2号店を開店したばかりの同社にとって打撃は大きく、資金繰りのために藤原社長の所有していた車も売りに出した。「人員削減」の四文字が頭をよぎる。

スティックアウト 藤原輝敏社長スティックアウト 藤原輝敏社長

その際、偶然目に飛び込んできたのが、同じ下北沢の飲食店が連合し、ネット上のクラファンで支援を呼びかける光景だった。これならいけるかも知れない、と自店舗での開催に踏み切った。

藤原社長には勝算があった。普段から交友のある卸問屋の社長が、地元のタイ料理店をクラファンで支援し、リターンとして永年の割引特典を持っていた。

「支援して終わりではなく、お客様と長い付き合いのできるキッカケになるのでは」。

そう感じた藤原社長は、1万円の支援者には2年間の10%引き特典、10万円の支援者には店舗閉鎖になるまで永続的に10%引き特典などを用意。また支援額を上回る金額相当の商品券や、海外への買付同行などのリターンを用意した。

いざクラファンの案件を公開すると、想像以上の支援が集まった。「取引先やお客様、中学時代の旧友など多くの方に応援を頂きました」(藤原氏)。

インスタグラムやメール、電話で応援の声が届き、涙を滲ませる時もあったという。既に100万円を超える支援を集めており、上記のような長期割引が支援金ベースで約半分を占める。助成金を活かして雇用を継続し、300万円が目標の支援金は、商品仕入れに充てたい考えだ。

店員の顔が目を引くクラファンページ店員の顔が目を引くクラファンページ

リターンには名刺作成、講演など

同じ頃、船橋にも頭を抱える経営者がいた。レディース衣料品の委託販売を行うブルーム(運営:プレジャーリンク、千葉県船橋市)の、泉澤義明社長だ。

同店ではブランド古着の委託販売を行っており、預かり商品の返却をするため休業は難しかった。営業時間を12時から16時の時短としたが、「お客様が来ても数名、来ない日もあった」(泉澤社長)。メイン層である高齢者の多くは外出を自粛し、売上はみるみる下落した。

その時、ネットで千葉県柏市のクラファンの盛り上がりを見かけたことから、同社でもクラウドファンディングを企画。商店街で呼びかけるも反応が薄かったため、まず自店舗のみで支援を呼びかけた。リターンに支援額の1割を上乗せした商品券や、名刺作成代行、泉澤義明社長の講演などを用意。また地域への恩返しという思いを込め、「中山の見どころ散策ガイド」も用意した。

ネットに不慣れな高齢者層が多いことから支援集めは苦戦するも、1週間で10万円、2週間で20万円と徐々に金額は増えていった。支援金をもとに、店舗の再出発を図るべく奮起している。

各社のリターン例各社のリターン例

キャンプファイヤー語る「実店舗こそチャンス」

スティックアウトやブルームが支援を募るプラットフォームを運営するのはキャンプファイヤー(東京都渋谷区)だ。同社では事業の見通しが不透明となった企業の案件に対して、寄付金から差引く手数料17%のうち、12%を割引く施策を行った。これにより、通常600件程度の公開案件数が、5月に2000件を超えたという。

「実店舗がネットで収益を得なければならない状況となった。クラファンはその入口として、短期の資金集めに向いており、EC化が難しい業界こそ、ネットで収益を得るチャンス」と話すのは広報の大畑広太氏。

コロナ禍でもっとも盛んに支援が行われたのが飲食店で、三重県四日市市の飲食店連合が実施したクラファンは、支援した金額に4割を上乗せした食事券をリターンに用意し、3億円近くを集めた。また個店でも、高田馬場の老舗居酒屋が、近隣大学のOB生などから1860万円を集めている。

「商圏の広さ、ファンの多さ、SNSの拡散力が支援金額に影響します。アップサイクルなどエシカル系の案件は人気が集まりやすく、支援者は働き盛りのEC利用層が中心です」(同氏)。

融資とは違う、無形資産の質屋とも言えるクラファン。新たな顧客接点としての活用が今後も期待される。

 

用語解説【クラウドファンディング】
群衆(クラウド)と資金調達(ファンディング)を組み合わせた言葉で、ネットで不特定多数から資金を募る仕組み。

第490号(2020/6/25発行)13面

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