膨大な蔵書を持つ研究者や文筆家、コレクターなどが急逝すると、本の整理が遺族の手に委ねられ、希少な本が必要な人の手に渡らなかったり、処分されたりしてしまうことさえあります。今回はそうした事態を避けようと、古書店を営む元教え子に生前整理を依頼した大学教授の事例をご紹介します。
本棚見て確認した知の枠組み
吉祥寺駅から徒歩2分の店舗
吉祥寺の古本 よみた屋(東京都武蔵野市)は、心理・思想・趣味・アートなどの古本や全集が充実した本格的な古書店だ。40坪の店内には5万冊に及ぶ古本が書棚に並んでいる。同店は2000年頃から「おじいさんの本、買います」をスローガンに、本の生前整理や遺品整理も積極的に手がけている。
「おじいさんの本、というのは比喩的な表現です。明治・大正・戦前の本や雑誌、カタログなどがあれば、捨てないで当店にご相談くださいという意味で使っています。古い資料が失われるのは、重大な文化的損失ですから」と語るのは澄田喜広代表だ。
そんな澄田代表が最も心に残っていると語るのが、少し前、心理学を専攻した大学時代の恩師、A教授から蔵書の買取りを依頼されたことだった。A教授は15年前に退官し、80歳を少し超えたくらい。娘一家と同居することになり、今住んでいるマンションは引き払うことになった。そこで家にある蔵書の4分の3を処分することにしたという。澄田代表が古書店をやっていることは、他の複数の教え子から聞いていて、整理するなら教え子に頼もうと思ったようだ。
第554号(2023/02/25発行)23面