第31回 古物市場をにぎわせる合成ダイヤとは
前回は、市場での落札値に影響する「宝石のソーティング」について取り上げました。基本的に、ダイヤモンドを出品する場合はソーティングを付けたほうが高く売れる、とお伝えしましたね。ソーティングの有無が重視される理由は、宝石のグレード評価を知るためだけでなく、そのダイヤが"天然か、合成か"を判別するための保証書のような役割を果たす点も大きいのです。背景には、近年市場をにぎわせている「CVD合成ダイヤモンド」の存在があるからでしょうか。
まず、合成ダイヤとは、天然ダイヤとは違って人工的につくられたダイヤのことで、大半の市場価値は天然物とは比べようもなく低いです。しかし、目視や従来の検査だけでは天然物と判別がつかない合成石も数多く存在しており、業界では無視できない問題となっています。CVD合成ダイヤとは「Chemical Vapor Deposition(化学気相成長)」製法で作られた合成ダイヤモンドのことを指します(製造方法の説明は、探せばより詳しい文献やWebサイトがありますのでそちらに譲ります)。
近年、このCVD合成ダイヤが国内の古物市場にも流通しており、ダイヤ相場に影響を及ぼしています。昨年秋〜冬頃は、メレから1カラットほどの大粒の石まで、CVD合成ダイヤが広く出回っているとの話題が業界を巡ったことから、鑑定書がついていないダイヤに対して懐疑的な目が向けられ、相場が下がった時期もありました。
時折、他のバイヤーさんからCVD合成ダイヤの見分け方を聞かれるのですが、判別は簡単ではありません。見た目では分かりませんし、厳密に調べるには専用の検査機械が必要です(ただし、非常に高額!)。実際、宝石を専門に取り扱う同業者が外国人から大量に買い取ったダイヤの大半がCVDだった・・・なんて話もあります。
そうした背景もあり、私も参加している「オークション連絡評議会(古物市場主が集まり、健全な市場運営やレギュレーションを検討する会合)」では、CVDを始めとする合成ダイヤの取引は原則禁止とし、大会終了後の後交渉を含めて規定の対象とすることを検討しています。
また、買取店を運営する中で持ち込まれたときにはどうすればいいか。専用の検査機械があればいいのですが、そこまでの設備投資ができない場合は「簡易検査器」と「人の真贋」で見極めるのがベターでしょうか。
例えば、ダイヤのタイプがⅠ型かⅡ型かを調べられる簡易検査器があります(ダイヤのタイプの説明は次の機会に)。天然ダイヤの95〜99%はⅠ型に分類されるといわれていますので、Ⅱ型と判定されたなら非常に希少な天然ダイヤか、合成ダイヤである可能性が高くなります。もし鑑定書が付属していれば、記載内容と実物のグレードにかい離がないか入念に確かめましょう。
そして、最後はやはり人の真贋です。以前のコラムでも触れましたが、悪意をもって不正品を持ち込んでくるお客の多くは、態度や言葉の端々に不自然さが生じるもの。また、合成ダイヤは外国人による大量持ち込みのケースが報告されていますから、こうした点も考慮して査定に臨むのがよさそうです。
齋藤 清(さいとう きよし)
株式会社アールケイエンタープライズ
執行役員 兼 オークション事業本部 本部長
Profile
グローバルトレードと共催する「RKグローバルオークション」のオークショニアを務めるとともに、日本国内はもとより海外でも買い付けを行う敏腕バイヤー。ブランド品リユース業界歴は20年余り。ゴルフとお酒を愛する憎めない人柄で、業界関係者との人脈も深い。
412号(2017/03/10発行)17面