ジュエリー法務相談室 新田真之介先生に聴く「民法改正で変わる買取契約」
2020年03月03日
「弁護士視点から考える」
合成ダイヤ買取対策講座
~第1回 民法改正で変わる買取契約~
はじめまして、「ジュエリー法務相談室」を運営している弁護士の新田真之介と申します。交通事故や損害保険などの事件を扱うことが多く、宝飾品や時計などの修理・盗難などの案件をきっかけにジュエリーに関する相談依頼を多数受けています。
このコラムでは、近年相談事例が増加している合成ダイヤモンドの買取において、弁護士としての視点から事業者の方が注意しておくべき点や最低限知っておくべき対処法について紹介していきますので、どうぞよろしくお願いします。
買取申込書や注意書きの改訂を
早速ですが、民法の債権法分野について明治以来の大改正が既に成立し、2020年4月1日から施行されることを皆さんはご存知でしょうか?つまり、今年3月末までの取引と、4月1日以降の引とでは、適用される条文が異なります。そこで、改正に合わせた取引書面(買取申込書や注意書き)の改訂をおススメします。
現行民法の下では、売買目的物の個性に着目する取引(特定物売買)と、個性に着目しない取引(不特定物売買)に分けて、目的物に何か瑕疵(かし)があった場合には、特定物売買には瑕疵担保責任(旧570条)の規定が、不特定物売買の場合には債務不履行(415条)の規定が適用される、と考えられています。
不特定物売買とは、例えば、宝石卸業者から「0.2caratのラウンドメレ-のダイヤモンドを、カラーやクラリティはどれでもいいから10個仕入れたい」という注文の場合で、買主としてはロットの中のどの石でも良いわけです。仮に、注文と違って9個しか持ってこなかったとか、10個のうち3個はモアッサナイトが混ざっていた、というような場合には、「約束通りの債務を履行していない」として「債務不履行」といえるわけです。
一方、特定物売買は、古物の買取がまさに典型ですが、「リユース店のトレーにお客様が持ってきたこの白色透明石のリング」が目的物になりますから、たとえ古物商がダイヤだと思っていたら実は合成モアッサナイトだと後でわかっていても「約束(契約)どおりのものを引渡していない!」とはならないわけです(「これ」は引渡しているので)。代わりに、「実はダイヤモンドではない石だった、という欠陥(これを「隠れた瑕疵」といいます)によって契約の目的が達成できないなどの要件を満たせば契約解除等ができると考えられていました(瑕疵担保責任)。ところがこの「隠れた瑕疵」がクセ者で、これは通常人が発見できないような欠陥のことをいいますが、合成石などの宝石買取の場面にあてはめると「プロとして店頭でどこまで検査しておけば隠れた瑕疵なのか」など、なかなか悩ましい事例が多いように思います。
そこで、今回の民法改正では、このような「特定物」「不特定物」という区別自体がなくなり、新しい考え方が導入されました。次回は、民法改正への具体的な対処法について紹介します。
新田 真之介
新田 真之介(にった・しんのすけ)
宝飾小売店、買取店等の顧問・法律相談などを行うジュエリー法務相談室を主催する。新田・天野法律事務所、東京弁護士会所属。日本ジュエリー協会2級ジュエリーコーディネーター。慶應義塾大学法学部、東京大学法科大学院修了。
第482号(2020/2/25発行)7面