ジュエリー法務相談室 新田真之介先生に聴く「民法改正への対処法とは?」
2020年03月16日
「弁護士視点から考える」
合成ダイヤ買取対策講座
~第2回 民法改正への対処法とは?~
「これが契約内容だ」と分かるものを書面で明示
2020年4月1日から施行される改正後民法では、改正前の「瑕疵担保責任」は廃止され、特定物か不特定物かで区別せずに、目的物が契約内容と違っていることに対する責任として「契約不適合責任」が新たに規定されました。これによれば、特定物か不特定物かの区別や、特定物についての「隠れた瑕疵」は問題になりません。
この「契約内容」とは、「引渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」(第562条)と定められていますから、買取り商品の「種類、品質」について、「これが契約の内容だ」とわかるものを書面で明示しておくことが重要になってきます。
例えば、合成ダイヤモンドか天然ダイヤモンドかは、取引慣行上、通常「種類・性質」にあたるとは思いますが、取引書面に「天然ダイヤモンドだと暫定的に判断したからこの値付けなので、その前提がもし異なっていたらこんな契約はしませんよ」ということを明示しておくと良いと思います。
また、買取申込書の注意事項欄などに「当店では、合成ダイヤモンドをはじめとする合成石・模造石の買取りは一切行っておりません。店頭買取後に鑑別機関に出した結果、値付けの前提としていたものと異なる結果となった場合には、買取契約を解除し、代金の返金を求める場合があります。」などと入れておきます。
そして、買取申込書のお客様同意事項欄に、「□お取引成立後、鑑別等によって商品が合成石・模造石であることが判明した場合には、買取契約の減額または解除に合意し、地金部分を除いた金額をただちに返金いたします。」のような一文を加えておき、同意のチェック欄☑を付けお客様に記入してもらうことで、契約不適合責任に基づく返金請求がしやすくなります。
では、2020年4月1日になるまでの取引では、「隠れた瑕疵」がなければ解除できないのかというと、そうではありません。改正前の瑕疵担保責任の規定は、あくまで原則を定めたのであり、売買当事者が個別の契約で合意すれば、民法の原則を変更することができます(「任意規定」と呼びます)。つまり、当事者間で契約等を交わしていれば、その合意内容が民法の規定よりも優先するということです。つまり、2020年4月1日を待たずに、早めに社内書式のリニューアルをしておき、個別の同意をとる運用にシフトしていくと良いと思います。次回は実際に買取店から寄せられた相談事例について紹介します。
新田 真之介(にった・しんのすけ)
宝飾小売店、買取店等の顧問・法律相談などを行うジュエリー法務相談室を主催する。新田・天野法律事務所、東京弁護士会所属。日本ジュエリー協会2級ジュエリーコーディネーター。慶應義塾大学法学部、東京大学法科大学院修了。
第483号(2020/3/10発行)5面