格安PC、不正オフィスのワナ
2023年05月02日
格安で売られるMicrosoft Office(マイクロソフトオフィス)付きの中古パソコン(PC)は「権利侵害品の可能性が高い」とPC業界で話題に上り久しい。「オフィスが急に使えなくなる」など弊害が生じ、昨今は"不正オフィス"販売者を糾弾する動きがSNSなどでも見られている。安さにつられ顧客が流れてしまうと、真っ当な業者の販売機会が損なわれ痛手だ。
同業者から糾弾の動き
「急に使えなくなった」 3年で相談100件超
「オフィス付きのPCが欲しい」。2018年頃、自営で中古PC販売を始めたばかりの髙橋直人さん(宮城県柴田郡)のもとに、お客から依頼が寄せられた。
髙橋さんはヤフオク!で1000円ほどの格安オフィスに飛びつき、それを買って、販売するPCにインストールした。
そしてお客にPCを納品し1ヵ月以上が経過した頃、「何だこれは?」とお客から電話があった。駆けつけてみると、エクセルを立ち上げようとした画面にライセンス認証を求める文言が表示されていた。
髙橋さんがマイクロソフトに問い合わせたところ、そのオフィスはボリュームライセンス(VL)と呼ばれる企業向けの商品であることがわかった。マイクロソフトHPに記載の「非正規品の見分け方」には確かに、「Office Professional Plusは企業向けの商品で一般消費者向けには販売されていません。(中略)すでに利用できない不正なプロダクトキーとセットで販売されているケースが数多く報告されています」とある。
ライセンス認証には、"管理者"のアカウントでのサインが必要だが、髙橋さんもお客も管理者でない。VLとは、企業が自社の従業員が使用する複数のPCにオフィスをインストールできるようにするためのもので、本来管理者とはVLを購入した企業となる。髙橋さんがヤフオク!でオフィスを買った際の販売元の情報は消され、確認するよしもない。非正規品を掴まされてしまったのだ。
髙橋さんは不正オフィスの糾弾活動を20年2月より開始(画像はツイッターの固定ツイート)。「買ったPCに付いていたオフィスが急に使えなくなった」など、不正オフィスに関する相談が100件以上寄せられてきたという
髙橋さんはこの経験をきっかけに、20年2月に不正オフィスを糾弾する活動を開始。ECモールで格安のオフィス付きPCを見つけると、商品販売者にコメントを入れ尋ねている。多くでブロックされるが、自身のツイッターからは疑わしい業者・商品について注意喚起を行っている。
これまで髙橋さんのもとには、「オフィスが急に使えなくなった」「このサイトのこの商品は怪しいか?」といった問い合わせが100件以上寄せられた。「PCを買って1年ほどで使えなくなる場合が多いようだ」(髙橋さん)。こうした実態を、コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)やECモール運営者などに報告するなどして、結果ECモールから姿を消した不正オフィス販売者もいたという。
本紙では22年4月10日号で初めて、不正オフィスの内容を報道。21年12月23日にECモール「楽天市場」からセラーへ「マイクロソフト関連商材における権利侵害品に関する注意喚起」の旨でメール通達がされていた。楽天セラーから除外された中古PC業者がいると噂に上り、本紙が噂の業者に尋ねたところ「既に楽天のセラーではない」ことが確認できた。
個人が購入できるオフィスの価格には3万円台のものもあるが、PCとの抱き合わせで格安に見せられれば、知らない人が手を出してしまいやすい。業界内での対応が求められる。
第558号(2023/04/25発行)13面