《着物リサイクル春夏秋冬》第216回 若い企業家と着物業界のキャリア
2018年09月08日
▲東京山喜 (店名・たんす屋) 中村 健一 社長
1954年9月京都生まれ。77年 カリフォルニア州立大学ロングビーチ校留学、79年 慶応義塾大学卒業。同年東京山喜入社、87年 取締役京都支店長、91年 常務、93年 社長に就任、今に至る。
バイセルテクノロジーズ
若い企業家と着物業界のキャリア
競争より共生で新たな買取の可能性
買取減少で様々な対策実行
この2年ほど、たんす屋の買取が減少している。1999年9月にこの事業を立ち上げて以来順調に伸びてきた
買取が苦戦を強いられ、3期前に着物、帯の年間買取点数60万点が前期には50万点を下回る状況になっている。この現状を打開すべく、色々と原因究明と対策を講じている。具体的な対策として、本部での一括買取から、店舗での買取実施と店舗からの出張買取実施を目指している。
更に、コンサインメント(委託販売)の導入や1点500円のたんす屋お買い物券での下取りイベントなど、有効と思われる施策を打ち出してきた。また、衣料品のリユースショップと協力して着物の買取を代行して頂き、買取された着物や帯を全品一定の率を乗せて買取することにも挑戦している。
見逃せない広告露出
しかしこの買取減少傾向の原因究明をしていく中で見逃せないのが、「スピード買取.jp」の名称でタレントの坂上忍さんを起用したCMの急増である。テレビ、ネット、新聞、ポスティングチラシ等でガンガン着物買取のコマーシャルを打ってくる。たんす屋の買取広告費と比較にならない広告ボリュームである。今一番旬で、人気タレントの坂上忍さんを広告塔に起用するだけでも大変な費用だと思う。それを首都圏始め、全国のテレビCMで放映するのだからそれは膨大な経費である。
つまり、これは「スピード買取」を経営するバイセルテクノロジーズの経営トップが、たんすに眠る着物や帯を買取するビジネスのポテンシャルを最も高く評価していることのあらわれに他ならない。従来、リユース着物市場のリーディングカンパニーを自負してきた、たんす屋のトップとしてこのことは看過できないことだ。
そこで、これは直接バイセルテクノロジーズの社長にお会いしてお話しを聞くのが一番だと思い、今年4月に四谷の本社にお伺いして率直に疑問をぶつけてみることにした。会社にお伺いすると、着物古着屋のイメージは全く無く、最近流行りのネット系ベンチャーの雰囲気があり、若さと活気を感じた。
出てこられた岩田匡平社長は33歳と若く、その経歴も東京大学工学部を卒業して博報堂に勤め、2014年マーケティングコンサルティングなどを、2016年からバイセルテクノロジーズのコンサルティングに関わり、2017年10月に同社の社長に就任されたそうである。
岩田社長が目指すところは何かをお聞きすると、「リユース業の帝王になる!」とのことであった。最も気になるコンプライアンスのことをお聞きすると、会社のミッションステートメントの一番に、法令遵守を持ってくるほど現在では気を配っておられるとのことであった。
両者異なる強み&目指す先
更に、現在では年間100万点を超える着 物や帯の買取をされているそうで、予想通りたんす屋の買取はあっさり凌駕されていた。しかし、彼らの着物販売チャンネルのメインはネット販売と市での販売で、リアル店舗はまだ存在せず、百貨店での催事販売もトライア ルが始まったばかりだ。つまり、たんす屋が目指すものと、バイセルテクノロジーズが目指すものは異なり更にたんす屋の強みとバ イセルテクノロジーズの強みが全く異なることが明らかになった。
この段階での私の判断は、バイセルテクノロジーがコンプライアンスを重んじる会社であるならば、
突然現れた強力なコンペティター(競争相手)と考えずに、双方の強みを活かしてアライアンスを
組むことで、着物市場創造を強力に推進でき るパートナーと認識す ることの方が大きい成果を得られると直感した。
岩田社長は若くて起業家精神に富み、マーケティングに長けている。私は彼よりも30歳年長で、着物業界で40年のキャリアとネットワークを持っている。競争して双方が消耗することにメリットはない。共生する方が単にお得ということ以上に、新たな化学反応が起きる可能性も感じた。岩田社長もたんす屋のことはしっかりと調べて頂いていたようで、このリサイクル通信のコラムも熱心に読んで頂いていた。
百貨店催事を共同で受注
そこで両社のトップ間で百貨店催事の共同受注を目指すことで基本的な合意ができた。「両社の強みを活かして大型の百貨店催事を早期に受注して、上がった成果を貢献度に応じてフェアに分け合う」というコンセプトである。
それに先だち、8月25日から有楽町の東京25日から有楽町の東京んす屋の誕生祭に、バイセルテクノロジーズのリユース商材を投入して頂き、その情報を坂上忍さんのCMでおなじみのバイセルが今回初の商品協力とネット広告で発信することになった。魅力的なリユース品の大量投入 で大なシナジーを期待しているが、いかがだろうか。
第446号(2018/08/25発行)18面