《トップINTER VIEW》Inagora 翁永飆社長、日本商材特化の中国向け越境EC
2019年01月05日
中国4億人の中流階級、日本の中古に注目
社長プロフィール
翁 永飆(おう・えいひょう)。1969年12月生まれ、上海市出身。1996年横浜国立大学大学院 電子情報工学研究科 修士課程修了後、伊藤忠商事株式会社に初の中国人新卒採用正社員として入社。2000年に独立し 、JWord株式会社(2000年)、インターパイロン株式会社(2000年)、キングソフト株式会社(2005年)、ACCESSPORT株式会社(2006年)を創業した後、Eコマースを通じて中国の消費者に日本の商品を販売する「越境EC」を発案。2014年、自身にとって5度目の創業となるInagora株式会社を設立し 、「越境EC」を中核に、企画、運営する。
「豌豆(ワンドウ)プラットフォーム」の名称で日本商材特化型の中国向け越境EC事業を展開するインアゴーラ(東京都港区)。美容健康関連商材を主力に約2600ブランドの日本商材を扱っている。今年よりSOUの小売業態「ALLU」が参入を開始した。今後どのように中古商材を取り入れていくのか、翁永飆(おう・えいひょう)社長に狙いを聞いた。
中国で台頭する中流階級に勝機
--御社の事業内容を教えてください。
翁 当社設立は2014年12月で、2015年に越境EC事業を立ち上げました。ワンドウプラットフォームは日本商品特化型の越境ECプラットフォームです。中国向けに商品を販売したい出店メーカーや卸企業は、注文が入り次第、日本国内にある当社倉庫に商品を送るだけで完結。
中国のお客様へお届けするまでの物流工程を当社が一元管理しています。また自社で運営しているショッピングアプリ「豌豆公主(ワンドウ)」や中国大手EC、SNSメディア等を使って横断的に商品展開を打ち出したり、マーケティング施策も行ったりしています。2017年度の流通総額は110億円を超えました。
--改めて、創業の背景は。
翁 2000年に伊藤忠を退職し独立して以降、インターパイロン、JWord、キングソフト、ACCESSPORTの4社を立ち上げました。共通点は「日中」。どれも中国のインターネット事業をジョイントベンチャー方式で日本向けに展開してきました。その時に日本市場のスケールと中国市場のスケールの差をしみじみと感じていました。
例えば日本のキングソフト で、予算作成をしたり業務報告をしたりする訳なのですが、日本国内ではそこそこの成長率を上げていても、中国と比べたら比べ物にならないくらい低いんですね。中国市場の大きさ、成長率の速さを実感しました。そこで同じく「日中」、そして「インターネット」をキーワードに、矢印を逆さにした「日本から中国」をビジネスモデルとし、何かできないかと思ったのが大きなポイントです。
ちょうど今中国では中流階級の出現に伴い、消費のグレードアップが起きている。日本で言うと年収300
万円くらいの人々が中間層に入り、4億人に達していると言われている。日常生活用品に対して金銭感覚が変わり、「少し高いけど、安心感が持てて質の良い日本商品を使おう」となってきています。
偽物横行しない日本の中古に安心
--今年SOUのALLUが出店を始めましたね。御社の越境ECの中で、中古商材はどういう位置づけでしょう。
翁 中国の消費者は面子を重視し、基本は新品を購入する傾向が強い。しかし90年代生まれ以降の人は割と個性志向です。生まれながらにネット環境があり、世界の色々な情報を得られる。何が何でも新品という訳ではなく、一部が中古品であってもそれが個性的であったり、環境の観点であったりと価値観は変わってきている。中古品への許容度が増してきたと思いますね。
--その中でまずは、中古ブランド品を取り扱っていこうと。
翁 ええ。日本では中流階級時代が長く続き、ブランド商品のストックがあります。ハイブランドだけでなく、ファッションブランドや少し尖ったブランドは中国では希少価値がある。そこに価格のリーズナブルさと、日本には偽物があまり横行していないという安心感が付いている。あくまでまだスタートステージではありますが、中国は日本の中古ブランドに興味を持ち始めていると言えますね。
--近い将来、ブランド品以外の中古品を取り扱うというのは。
翁 これからもう少し幅を広げていこうと検討しています。ファッションアイテムや陶器なども。現状当社では日本のコンシューマーとの直接の接点はありませんので、個人からの出品を受け付ける機能はないんですね。しばらくはSOUさんのように個人から買取りをされている業者さんとの提携を、今よりも拡大していきたいです。
中国最大のECセール「独身の日」
--中国では「独身の日」というセールが行われていると聞きました。
翁 はい。日本の報道機関では「独身の日」と呼ばれているようですが、現地では「ダブルイレブン」と呼んでいます。毎年11月11日を指します。独り身を表す1が4つ並ぶことから来ています。10数年前に中国の若い人の間で流行用語になったのが始まりのようです。
その後アリババが、どうせやることがないなら買い物をしよう!とキャンペーンをスタートし、今では中国eコマース業界にとっても年間で一番大きなセールイベントとなるまでに盛り上がっていますよ。アリババさんは今年、兆円を1日で超えたという報道も出ています。このセールでは日本の商品も凄く人気があり、日本企業にとっても新たな勝機として認知されてきています。
当社プラットフォームではユニ・チャームさんの商品などは非常に人気が高かったです。当社でも年間に四大キャンペーンを打ち出し力を入れているんですが、今年は過去最高売上を記録しました。
嗜好性高い中古品の提案強化へ
--最後に、今後の取り組みについて教えてください。
翁 ここまで約3年が当社としては第一ステージ。中国人による日本商品の爆買いも少しずつ落ち着き、日本の有名ブランド品の需要もある程度一巡してきたように感じます。それでも、引き続き来日する中国観光客は増えていますし、日本に対する関心の高さや信頼は高まってきている。
第二ステージでは、例えば同じブランド品というカテゴリーの中でも、エッジの利いた商品やニッチ商品の提案強化をしていきます。本来中古品というのはブランディング・マーケティングの必要がなく、元々買いたい商品の新品の価格と比べて、中古品は安いから選ばれるというのが1つの流れでしたよね。
しかし私が思うのは中古品というのは1つの嗜好性から来る物だと思っています。陶磁器なんかは特にそうで、好きだから欲しいという物です。日本の嗜好性の高いライフスタイルを中国に発信していきたいです。
会社データ
社名 Inagora株式会社
本社所在地 東京都港区赤坂4-15-1 赤坂ガーデンシティ16階
従業員数 310名(東京・北京・上海・杭州 合計)
資本金 1.8億円(グループ資本金 約132億円)
設立 2014年12月15日
代表取締役社長 翁 永飆
事業内容
日本の商品やサービスをインターネットを通じて中国を中心に海外展開する越境EC事業および国内EC事業の運営および上記に伴う海外マーケティング、物流、コンテンツ制作など複合的な付帯事業を行う
第454号(2018/12/25発行)9面