《着物リサイクル春夏秋冬》第224回 いきなり振袖レンタル
2019年05月08日
・「はれのひ」事件で成人式に不安を感じる傾向に
・現在の市場は熾烈なサービス合戦
・ヘアメイク不満解消のため「いきなり振袖レンタル」開始
中古着物を販売するたんす屋社長の中村健一氏が、自社の取り組みなどから中古着物業界について切る、本紙連載企画「着物春夏秋冬」。
▲東京山喜 (店名・たんす屋) 中村 健一 社長
1954年9月京都生まれ。77年 カリフォルニア州立大学ロングビーチ校留学、79年 慶応義塾大学卒業。同年東京山喜入社、87年 取締役京都支店長、91年 常務、93年 社長に就任、今に至る。
成人式当日に振袖が着られない不安を解消
レンタル当日にフルセット持ち帰りOK
記憶に残る「はれのひ」事件
昨年の成人の日の数日前、着物業界雑誌の編集長で親しくしている松尾氏に、成人式振袖レンタル業者の「はれのひ」の経営が非常に危険な状況にあると聞いているが、実際にはどうなっているか、問い合わせてみた。松尾氏の返事は、「はれのひ」の存在すら把握していないとの事であった。私もこの情報を業界関係者の方から聞くまでは、松尾氏と同じくその会社の名前を聞いたことがなかった。それぐらい「はれのひ」は創業から間もなく、知名度のない存在であった。私は松尾氏に、何かあれば情報を集めて頂けるようにお願いしておいた。
すると昨年の成人の日当日1月8日の午前8時頃、車を運転中に私の携帯電話が鳴った。松尾氏からで、「はれのひ」が今朝から営業停止したとの一報であった。まさか成人の日当日の朝に営業停止するとは予想外の展開であり、着物業界に40年身を置いている私も聞いたことが無い前代未聞の事件だ。
私はその場で「はれのひ」の店舗所在地を聞いて、松尾氏に近隣のたんす屋店舗で「はれのひ」のお客様に今、可能な限りのレスキューをすると伝え、松尾氏は即刻ネット上でその情報を拡散してくれた。一方で私は、横浜、八王子、つくばの近隣のたんす屋に緊急連絡を入れて、お困りのお客様が来店された場合は、当日の成人式に間に合うように全力対応を指示した。
結果的に横浜ビブレの「Tokyo135°」(たんす屋の一業態でF1層をメインターゲットにしたショップ)に、二組の「はれのひ」被害者が泣きながら来店された。何とか緊急レスキューをして差し上げられ、無事に横浜アリーナの成人式に間に合われた。
その後約1ヵ月間、連日テレビのワイドショーで「はれのひ」事件が大々的に報道されたことは、記憶に残っている事と思う。この事件は、新たに成人式を迎えるお客様に強烈なインパクトを与える事となった。
振袖レンタルはサービス合戦
現在、新成人の女子約60万人の60%にあたる36万人が、振袖を着て成人式に参加されているようだが、この内約40%がレンタルを利用され、約40%がママ振といってお母様の振袖を着ている。その結果、新たに新品の振袖を購入される割合は20%まで減少する傾向にある。
「はれのひ」事件以降、振袖レンタルをされるお客様の最大の関心事は、「事前にお金を支払ってレンタルした振袖が、成人式の当日にちゃんと段取り通り用意されているだろうか?」ということになってしまった。そこで、たんす屋では、このお客様の心配を一掃できるビジネスモデルを模索していた。
現在の振袖レンタル市場は、お客様へのサービス合戦になっている。「はれのひ」が経営破綻したのも収益が悪化して大幅な債務超過状況に陥ったことが原因であることはあきらかである。成人式の振袖レンタルの相場価格は20万円から25万円だが、写真の前撮りサービスや成人式当日のヘアメイク、着付けなどが無料になっていることが一般化しており、更には卒業式の袴まで無料でレンタルできるサービスまで見かける。
アップの髪型似合わない!
私は、実際に成人式で振袖レンタルをされたエンドユーザーに感想を聞いところ、意外なところに多くの不満があることが見えてきた。それは、成人式当日に行なわれるヘアメイクである。
多くの場合、成人式当日の早朝から一斉にヘアメイクと着付けを成人式に間に合うようにするわけだが、ほとんどのお客様は着物に合わせたヘアメイクに慣れていない。結果的に美容師さんにお任せする事になり、一様にアップにされた髪型が自分には似合わない!などの不満につながっているようである。
たんす屋では、この成人式の振袖レンタルに関するお客様の不安と不満を一気に解決する為の具体的施策として、「いきなり振袖レンタル」というサービスの実験を4月1日から、原宿と横浜ビブレの「Tokyo135°」でスタートした。
このサービスの一番目の特徴は、レンタルしたその場で、いきなりレンタルした振袖をフルセット持ち帰れる事である。つまり、レンタルしたのに購入した場合と同じく振袖から帯、小物まですべて持ち帰ってもらう。これで先ずは、成人式の当日にレンタルした振袖がちゃんと段取り通り用意されているかという不安は、完全に解決できる。
次のヘアメイクに関する不満をどのように解決できるかという問題であるが、結論から言って着物屋の私どもではヘアメイクの問題は解決できない。それならば、いっそ逆にサービス合戦の振袖レンタル市場において「いきなり振袖レンタル」は一切のサービスを提供しないことで、価格を極限まで切りつめようと考えた。上が9万円、特上が13万円だ。更に、ネット上でもこのサービスを提供したいと考えているが、いかがだろうか。
第462号(2019/04/25発行)18面