国民生活センター、押し買い被害2016年をピークに3年連続で減少
2019年12月09日
国民生活センター(東京都港区)に寄せられる訪問購入(以下、押し買い)の相談件数は、2016年をピークに3年連続で減少する見通しだ。減少傾向の一因は、特定商取引法(以下、特商法)による訪問購入規制の認知が進んできたこと。一方で、高齢者を中心とした押し買い被害もまだまだ顕在。訪問購入時に顧客から「悪徳業者ではないか」と誤解されないためにも、法令の遵守が肝要だ。
相談内容もマイルドに
「不用品を買取る」との名目で訪問した買取業者に、法外な値段で貴金属を無理やり買い取られた...。悪質な訪問購入、所謂「押し買い」被害は、どうやら徐々に減っているようだ。国民生活センターに寄せられた押し買い被害の相談件数は、2013年度の7159件から2016年度には8655件と、4年連続で上昇。しかし翌年度は8431件へと微減し、2018年度には6650件と約2000件減少。2019年度の11月上旬までは前年同期比25%減の2928件だった。相談に寄せられる内容も、以前と比べると悪質な内容が減少しているようだ。
ピークは2016年度の8655件。その後、前年比2.6%減、同21.1%減と2年連続で減少した。今年度は11月上旬までで前年同期比25.0%減
「以前は『訪問した買取業者が怒鳴る等の恫喝を行った』というケースが多く見受けられましたが、最近はそのようなケースは減少してきました」(国民生活センター 神辺寛之氏)
国民生活センター神辺寛之氏
処分事例が反面教師に
相談件数減少の理由として挙げられるのは、2013年に施行された特商法の改正だ。
リユース業界に詳しい早川明伸弁護士によると、2011年に起きた東日本大震災後、被災者の自宅に押し掛け、強引に貴金属等を買取る押し買い行為が横行した。このような悪質商法を規制するために、2012年8月に改正法が公布、2013年2月に施行。同法の規制対象となる取引類型に「訪問購入」が加えられ、①勧誘目的の明示、②不招請勧誘の禁止、③勧誘意思の確認義務、④再勧誘の禁止、⑤書面交付義務、⑥クーリング・オフの通知、⑦物品の引渡しの拒絶等が規定された。
これまで行政処分の対象となった訪問購入業者は17社(うち1社は2回処分)。年度別にみると、最も多く行政処分が執行されたのは2017年度の6社だった。翌年度の押し買い被害相談件数は前年比21.1%減と、前年度の同2.6%減に比べ大幅減。消費者庁は行政処分内容を開示しているため、処分事業者の増加に伴い、同法の認知度も上昇したのではと考えられる。
特商法に則った買取を
今年11月上旬までに寄せられた相談件数の内、約70%は60歳以上の高齢者から。男女比でみると、約8割は女性だった。
「一人で自宅にいる時間が長い主婦や、単身高齢者等が被害に遭うケースが多いです。被害に遭った後家族に相談し、クーリング・オフを要求しても、行方をくらませたり商品が無いと言い張ったりする買取業者もいるようです」(神辺氏)とはいえ、訪問買取では来店が難しい高齢者が対象になることも多いだろう。トラブル回避にはどうすべきか。それにはやはり、特商法の遵守が一番だろう。
「特商法では、売買契約が成立してから8日間であれば消費者は物品の引き渡しを拒絶でき、業者はこの権利を消費者に伝える義務があります。また、飛び込みの訪問や、事前に買取り依頼を受けた物品以外の査定勧誘等も法令違反。きちんと社名を名乗り、強引な買取りを行わず、適切な書面を交付することで、消費者に安心感を与えることが重要です」(早川弁護士)
国民生活センターが受けた最近の事例
1)買取後、品物が紛失した(70代女性)
買取業者にアクセサリーの訪問買取を依頼。査定品の中にイヤリングがあったが、同品は売らずに他のアクセサリーを売却した。後日、イヤリングが紛失していることが発覚。業者に問い合わせたところ、当時の担当者が既に退職したため、詳細は分からないと言われた。
2)クーリング・オフの権利を放棄させられた(70代女性)
茶釜の買取を依頼したところ、業者から「貴金属はないか?」と言われ、指輪やアクセサリーを無理やり査定・買い取られた。契約時、「クーリング・オフ破棄書」なるものにサインさせられたが、怪しいのでクーリング・オフしたい。
3)クーリング・オフ期間中に業者が転売した(70代男性)
不用なLPレコードの訪問買取を依頼。訪問時に貴金属の売却を勧められ、売却する。契約から8日以内にクーリング・オフをしたいと業者に伝えると「品物は既に売却したため、返品できない。代わりに相当額を支払う」と言われた。
第476号(2019/11/25発行)20面