「脱炭素社会とリユース」資源効率化で進む、物の長寿命化
2022年01月06日
政府は一昨年、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すことを宣言した。「経済と環境の好循環」を掲げるグリーン成長戦略の中、社会においてリユース市場はどのような役割を果たしていくのか。環境問題とリユースに詳しい、三菱UFJリサーチ&コンサルティング持続可能社会部主任研究員の加山俊也氏に聞いた。
資源効率化で進む、物の長寿命化
ゼロカーボン社会はリユースが前提に
三菱UFJリサーチ&コンサルティング
持続可能社会部主任研究員
加山 俊也氏
── 2050年のゼロカーボンに向かっていく中、リユースはどのような位置づけになると考えますか。
加山 リユースはもっと再評価されるでしょうし、またされるべき取組みだと認識しています。リユースだけでなく、シェアリングやサブスクなども含め、物をシェアする、物を繰り返し使う、いわば製品寿命を延ばす行為自体は、ゼロカーボンを目指す世界の中では優先すべき取組みの一つになると思います。
── ゼロカーボンと聞くとエネルギーやインフラの話がクローズアップされがちです。
加山 確かに発電等のエネルギー関連の影響は、はるかに大きいですが、それだけでは難しい。社会全体の仕組みが変わっていかないと達成できないんだろうなと考えています。
社会的要請で変わるものづくり
── 企業や消費行動はどう変わっていくと思いますか。
加山 使い終わったら捨てるという消費行動から、リユースとして回すことを前提とした社会になり、消費行動の変化や製造業などからも動きが生まれてくると思います。既に一部で起きていると思いますが、消費者も商品を買う時や、使う時に「最後にこれをどうするのか?」という意識を強く持ちやすくなります。例えば、購入時の箱や説明書を取っておく等を含め、買い取ってもらうことを前提とした使い方が広がっていくでしょう。
── 一方でモノづくりはどう変わっていくでしょうか。
加山 製造業においては、大量生産、大量消費時代のような安かろう、悪かろうですぐに壊れてしまうような製品は作りにくくなる社会になる。資源効率を高める必要があるため、良い物を長く使うという方に向いていくでしょう。
── 製品の長寿命化は企業視点で考えるとハードルが高そうです。
加山 ゼロカーボンを実現するのであれば、いろんな面で変わらざるを得なくなっていくと思います。例えばESG投資の観点から考えると、やっている会社はエライよね、ともてはやされる時代から、やっていなければ商売の土俵に立てないという参入要件になり、レベルが上がってきている。これが進むと、やっていない会社とは取引ができなくなってくるため、資本が必要なメーカーは、変わらざるを得なくなってくるでしょう。
── 製造業のビジネスモデルも大きく変わりそうですね。
加山 これまでの「機能」といった付加価値ではなく、製品寿命を延ばすことで付加価値を高める。もしくは、メンテナンス等のアフターフォローとセットで販売するという業態に変わっていくのではないかと思います。
物価上昇局面は追い風になるか!?
── 製品寿命が延びると、従来よりも買い替えが起きにくくなるため、物の値段は上げざるを得なくなると思います。可処分所得が伸びない中、購買需要が追いつかないのでは。
加山 そこでリユースやサブスク、シェアリング等のサービスの下支えが重要になってきます。リユースができれば、新品が高くても、買い取ってもらえれば市場が安定します。新品は難しくても、セカンドやサードユースなら手が届く価格になる。リユース市場が形成されることで、新品市場の価格も安定します。自動車市場も、新品と中古市場があり値崩れがしづらい。新品かどうかでなく、欲しい機能やサービスを得られるかという方向に向かわないと脱炭素は達成しないんじゃないかと思います。
── 欧州ではグリーンフレーションと言われ、脱炭素に向けた取り組みにより物価が上昇していると言われています。こうしたことは今後、日本でも起こるのでしょうか。
加山 日本でも起こりうると思います。グリーンフレーションが起きる理由って何かを考えると、需給バランスが変わることによる価格上昇もあれば、カーボンニュートラルへの投資や炭素税などが製品価格に乗ってくることもあります。
── これまでリユース市場はデフレ下で成長してきました。物価上昇局面は、どんな影響がありそうですか。
加山 品目によって異なる面があるとは思いますが、リユースにとっては追い風と考えます。デフレ下では、例えばファスト家具が出たことで、リユースの相対的な評価が落ちてしまったのとは逆のことが起きる場面が増えると。新品の価格が上がることで、リユース品の価格帯が広がります。リユースがビジネスとして成り立ちにくかったものが、成り立ちやすくなるため、多くの製品に関しては、リユース市場が形成されやすい環境になると考えます。
── 今後リユースが進んでいく上での課題は何だと思いますか。
加山 リユースに対して求められるものも今後高度になるというか、高度になった方が進むのではないかと思います。単に中古品を使うのではなく、トレーサビリティも含めて、安心安全に使える必要がある。環境負荷低減の効果、脱炭素にどれだけ寄与できるのか、中古流通の中でも安心安全を高めていく事で市場が開拓されていくのではないかと思います。
また、リユースが社会に根付くには、選択肢の多様性がもっとあっていいと思います。フリマアプリやリユース企業があっても、面倒だから捨てるケースがまだまだある。多様な手段が増えれば、それぞれのルートが活性化し、リユースの市場が伸びることにつながるのではと思います。
第527号(2022/1/10発行)9面