《着物リサイクル春夏秋冬》第214回 横森美奈子が創り出すリアルクローズなデザインに衝撃
2018年07月09日
▲東京山喜 (店名・たんす屋) 中村 健一 社長
1954年9月京都生まれ。77年 カリフォルニア州立大学ロングビーチ校留学、79年 慶応義塾大学卒業。同年東京山喜入社、87年 取締役京都支店長、91年 常務、93年 社長に就任、今に至る。
横森美奈子のおしゃれ着物コーデ帖
▲「横森美奈子のおしゃれ着物コーデ帖」
人気アパレルデザイナーが創り出す
リアルクローズなデザインに衝撃
5月29日に、横森美奈子の「おしゃれ着物コーデ帖」と言う本が亜紀書房から出版された。サブタイトルは「かしこく愉しむリユース着物活用術」である。
ご存知の方も多いかと思うが、横森美奈子さんは1970年に桑沢デザイン研究所を卒業後、約半世紀にわたってアパレル業界でトップデザイナーとして活躍してこられている。
BIGI社の「MELROSE」やメンズBIGI社の「HALEMOON」のチーフデザイナーを歴任し、その後はワールドの「smart pink」のブランドディレクターやEテレの「おしゃれ工房」や「すてきにハンドメイド」のレギュラー講師もされていた。
そして最近では、ショップチャンネルで「ミナコ★ヨコモリ」ブランドをデザイン&プロデュースし、大ヒットさせている。
着物とまったく無縁な生活を送ってこられた横森美奈子さんが、着物と接点を持つきっかけは、お母様を亡くされたおりだそうだ。
着物好きだったお母様が残された着物をどうしようかと思ってネットで調べ、「たんす屋」にご連絡をして頂いたそうである。
そしてたんす屋の出張買取に好印象を持ち、たんす屋の店舗に行ってみようと思われたそうだ。
お住いの最寄りのたんす屋に行ってみて、価格の安さ、商品のきれいさ、品揃えの面白さに魅了されたそうである。それが着物道への第一歩だという。
従来の流通を無視 直接ユーザーに訴求
私が初めて横森美奈子さんに関心を持ったのは、もう10年以上も前になると思う。
西麻布のギャラリーで、横森美奈子さんが利休バッグ(和装時に持つ長方形のバッグ)と作り帯の発表会をされているのを見に行かせて頂いた時である。
衝撃的であった。仕事柄、着物や帯や和装小物の発表会を見に行く機会は数多あったが、人気アパレルデザイナーが服地やスカーフを素材に、帯や利休バッグを制作されることも驚きであったし、従来の呉服業界の流通をまったく無視して直接エンドユーザーにご自分の企画・デザインした商品を訴求するやり方もすこぶる新鮮であった。
横森美奈子さんはアパレルデザイナーとして大活躍し、50代で着物に目覚め、着物ユーザーの目線で着物ユーザーに自身の経験を通して新たな提案をされたことが大きなインパクトを与えることになった。
従来の呉服業界では、着物や帯の作り手がリアルのエンドユーザーにインパクトを与えることが容易ではない。
原因は、呉服業界の長い流通が価格決定の仕組みをわかりづらくし、エンドユーザーの反応を作り手が次のもの創りに活かせる仕組みがなくなっていったことにあると思う。
逆にアパレルデザイナーがリユース着物をきっかけに着物に目覚めたことで、従来の呉服業界の仕組みを無視してユーザー目線のもの創りをしたことが、多くのユーザーの支持を受けることになったと思う。
バッグ素材に エルメスのスカーフ
横森美奈子さんの利休バッグは、エルメスの絹スカーフを使用したり、作り帯はインテリアの生地を使用したり、更にはその帯を切って付け帯にしたりと本当にユニークで、もう10周年を迎え来年秋にも展覧会が決まっているそうである。
従来の呉服業界の流通には乗らないと思うが、エンドユーザーにしっかりと影響を与えて、今まで着物に関心を持たなかった多くの人々にも〝これなら着物を着てみよう〟と思わせる力がある。
先月、有楽町の東京交通会館で開催した、たんす屋「本決算エキサイティングバザール」の最終日21日に、今回の出版を記念して、横森美奈子さんとトークショーを企画した。
亜紀書房さんに無理をお願いし、出版前の試し刷り30冊の事前販売と横森さんのサイン会も計画した。
お陰様で多くの横森さんファンがご来場し、大いに盛り上がった。
私がトークショーで受けた手応えは、50代半ばでリユース着物をきっかけに着物道に一歩を踏み出し、すっかり着物の楽しさに目覚めたアパレルのファッションリーダーである横森さんの体験は、多くの中高年の方々に大きな共感を持って迎えられるだろうという確信の様なものであった。
横森さんの提案される着物は晴着ではなく、カジュアルなリアルクローズである。
ファッションデザイナーとして永年多くのブランドを立ち上げてこられた感性で、今の時代にマッチしたカッコいいファッションであるか否か、そして気軽にリアルクローズとして楽しめるか否かが最も重要なコンセプトの様に感じた。
従来の呉服業界は、素材や加工技術にこだわり、結果としてエンドユーザーの真の価値観からずれて行ってしまった様に思う。
その結果、多くの日本女性が着物が好きで、着物を着たいと思っているのに、着物市場は右肩下がりから40年以上も脱却できずにいる。
これを機に、横森美奈子さんと色々な方達でアライアンスを組み、着物の潜在需要を顕在化し、着物新市場創造に挑戦したいと思っているが、いかがだろうか。
第442号(2018/06/25発行)18面