ジュエリー法務相談室 新田真之介先生に聴く「債権回収は逆算して考えよう」
2020年05月15日
「弁護士視点から考える」
合成ダイヤ買取対策講座
~第5回 債権回収は逆算して考えろ!~
今回から、実際に返金請求や損害賠償請求を行っていくためのお話をします。
リユース店経営者の皆さんの中にも「以前民事訴訟などをしたことがあるが、判決は出たけれど結局相手方から支払われなかった」というような苦い経験をしたことがある方もいらっしゃるかもしれません。「逃げられない」ためには事前にどのような対処をしておけば良いのでしょうか。重要なのは、紛争になる前に、つまり取引開始時にいかに相手方の情報を得ておくかだと思います。
我々弁護士が債権回収を行うときにまっさきに考える手段は、①銀行預金の差押え、②給与の差押え、の2本です。他に不動産や動産の差押えがありますが競売手続に余計な手間と費用がかかるなどの問題があり、①、②は「直ちに現金が得られる」という点で優れています。
つまり、「どこの銀行のどこの支店に口座をもっているのか(メインバンクの把握)」、「職場はどこの何という会社か」を把握できていてそこにお金があれば、回収できる可能性がぐっと上がります。また、「最悪差押えもできる」という状況で優位に交渉を進めることができるため、任意の支払を促しやすくもなります。
これらは、最終的に「差し押えをする」ために必要な情報ですが、実際の店頭で申込書に記載を求めても、「そんなプライベートなことは言いたくない」などと抵抗されることも予想されます。前回お伝えした注意レベルが高い相手方の場合については、会話の量を増やしてなるべく勤務先を把握しておくことや、「皆様に記入をお願いしています」と形式的に申し込み用紙に記載してもらうよう誘導するなど工夫をしてみてください。
最近は顧客の情報を得るときに、個人情報取扱規程(プライバシーポリシー)を各社内で設ける必要があります。取得した情報の管理についてと合わせて、いまいちど個人情報取扱規程を見直し、マーケティングなどに必要な情報と、債権回収上必要な情報が網羅されているかについて検討してみてください。
次回は、実際に支払いを要求するいくつかの手段についてお話します。
新田 真之介(にった・しんのすけ)
宝飾小売店、買取店等の顧問・法律相談などを行うジュエリー法務相談室を主催する。新田・天野法律事務所、東京弁護士会所属。日本ジュエリー協会2級ジュエリーコーディネーター。慶應義塾大学法学部、東京大学法科大学院修了。
第487号(2020/5/10発行)5面