私は「思い出と向き合いきれていない人からは無理に買い取りません」
リユースビジネスにおいて「買取り」は肝。これの接客に長けたバイヤーを、その人の思想やエピソードとともに紹介する。 |
店頭買取も始めた
ある朝、LINE査定に舞い込んできた1件の買取依頼。30歳くらいの男性から「いくらぐらいになりますか」と、立て爪ダイヤの指輪の写真が数枚送られてきた。「グレードを見ますとダイヤモンドはこのくらい、貴金属のほうは重さがわかりませんが平均的にこのくらいでしょうか」と井上さんが丁寧に返すと、「出張に来てほしい」とすぐに日取りが決まった。
見るからに女性向けとされるその指輪に対して、「お客様には何か出来事があったのだろう」と見当をつけた井上さん。当日伺い、最初は「今日はお休みなんですか?」などと他愛もない会話をしながら緊張感を解いていく。そして査定を終えて、「言いづらいかもしれませんが、こちらの指輪どうされたんですか?」と思い切ってきいてみた。
「実は、プロポーズに失敗を...」。そう返したお客に、驚いた井上さんはさらに聞いてみた。今から6年前、当時付き合っていた方に贈ろうとした指輪だったが、受け取ってもらえなかったのだという。それから6年、部屋を片づけていたら本人も忘れていたという指輪が出てきたのだ。「お客様がきちんとご自身の思い出と向き合っていらっしゃったのがわかりましたので、お買取りしました」(井上さん)。
第500号(2020/11/25発行)10面