古書店主に、思い出に残っている一冊を紹介してもらうリレー連載。第三十一回目は古書明日の田中大士の紹介で、クラリスブックスの髙松徳雄さんが登場する。
映画ファンを惹きつける
高峰秀子
「わたしの渡世日記」
(上下巻)
新潮文庫
私の思い出の一冊は、高峰秀子さんが書かれた「わたしの渡世日記」です。私は映画が大好きなのですが、これを読んだことで、彼女を何度も起用した成瀬巳喜男監督の作品に出会うことができました。そして、書かれている彼女の人生があまりに壮絶だったので強く印象に残っています。映画制作の裏話や俳優の生い立ちなどにはあまり興味がないため、こうした本を読むことは稀なのですが、何度も読み返すほど惹かれています。
彼女の人生は、生後間もなく叔母の養女となるところから始まります。5歳で子役デビューしてから女優として成功していく一方で、家族との複雑な関係に苦悩していたなど、衝撃の事実が赤裸々に綴られています。また、世界の有名映画監督たちがリスペクトする、あの巨匠や著名な作家など、様々な交友関係にまつわるエピソードも満載で、昭和の映画界を知るための資料にもなっています。
第574号(2023/12/25発行)23面